半導体不足で生まれる「圧倒的売り手市場」の実態 マイナーな半導体メーカーの立場も超有利に
さらに長年にわたって繰り返された企業統合の結果、業界の余剰生産能力はそぎ落とされ、現在は特定の種類の半導体がごく少数の企業によってのみ供給される図式となっている。顧客は以前なら短納期発注や直前のキャンセルも可能で、半導体会社を競わせて値引きさせることも行ってきたが、そのような力は失われつつある。
業界の変化を受けて、半導体工場の価値も高まってきた。これは、ファウンドリー企業が所有する一昔前の工場も含めての話だ。新しい工場での生産コストが非常に高いものとなったため、半導体設計会社の中には生産委託先として最先端の工場を使わないようにしているところもある。その結果、比較的生産コストの低い5〜10年前の生産ラインに対する引き合いが強まり、生産が需要に追いつかなくなってしまったのだ。
このような状況を受けて、一部のファウンドリー企業は古い生産技術への投資を増やすという戦略上の大転換を進めている。TSMCは最近、何世代も前の技術を用いた工場を日本に建設すると発表した。ファウンドリー企業としてTSMCとライバル関係にあるサムスン電子も、「古い技術」による新工場を検討中としている。
それでも、半導体不足の縮図ともいえるマイコンの供給問題は解消しない。
マイコンは演算機能とプログラムやデータを格納するメモリー機能が組み合わさった半導体で、そこに特定の工場でしか対応できない特別な機能が追加されることも多い。しかもマイコンの用途は、自動車の制御システム、監視カメラ、クレジットカード、電動スクーター、ドローンといった具合に急速に拡大している。
急増するマイコン需要、足らない製造装置
「過去1年で販売したマイコンの数は、おそらく過去10年分よりも多い」。そう語るのは、ヒューストンを本拠とする半導体商社スミスの最高取引責任者マーク・バーンヒルだ。人気のマイコンの中には、納期が1年を超えるものも出てきており、こうした製品の価格は半導体取引の現場では20倍に跳ね上がっているという。
半導体不足の混乱が深まる中、半導体を設計したり使用したりする企業は新たな手法で対応を図るようになった。半導体設計企業の中には、大きな生産能力を持つ、これまでとは別の工場で生産できるよう設計変更を進めているところもあると、ITコンサルティング企業キャップジェミニのシヴ・タスカーは語る。
かつては価格と性能を基準に半導体を調達していた顧客も、入手可能性に一段と気を配るようになった。
ただ、半導体業界における立場の逆転は、マイクロチップのような会社にとっては追い風だが、同時に頭痛の種にもなっている。生産が需要に追いつかないためだ。
マイクロチップが自社の生産能力を引き上げるのは、簡単なことではない。例えば、同社の設備投資はこれまで中古の半導体製造装置に大きく頼ってきたが、モーシーによれば、その中古市場が「完全に干上がってしまった」。製造装置を手に入れようにも、1年〜1年半の時間がかかり、出費も以前よりかさむようになったという。
(執筆:Don Clark記者)
(C)2021 The New York Times Company
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