「お金不要」で次々とモノが届く「地下経済」の内情 「本当のコスパ最高」は東京のど真ん中にあった

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第3に、どうも誰もが、「あげる」を「もらう」より上回らせようとしているフシがある。これもまったく不思議である。だって、それって一言で言ってしまえば「損してる」ってことですよね。コスパ最高とやらかがもてはやされる表の世界とはあまりにも対極すぎる。でも振り返ってみれば、この私もそうなのだ。いったいなんなんだこれは……とわが心を改めて観察してみると、それは親切心とか慈悲の心とかそういうことではなくてですね、なんだかその方が単純に「落ち着く」のである。

よく考えたら、それは当たり前のことかもしれない。

だって「あげる」が上回っている状態というのは、自分が誰かに感謝されている状態ということだ。どうりで居心地がよいはずである。なんだか運気も上がりそうだ。

おまけに「損してる」ったって、冷静に考えれば大した元手などまったくかかっていないのだ。頂き物を横流ししたり、持っていても使わないものを持参しているだけなのだから、ほぼノーコストと言っていい。それで居心地のよい状態を作り出すことができるのならば、これぞ本当の「コスパ最高」なんじゃないだろうか?

そして前回も書いたように、このようなやり取りのできる相手、つまりは地下経済圏を拡張するほどに、親しい人、信頼しあえる人がどんどん増えていくのである。いやはやこれなら孤独担当大臣なんて全然いなくて大丈夫じゃねーか! 何度も言いますが、これぞ本当の「コスパ最高」なんじゃないでしょうかと思わずにはいられないわけです。

「人生を救う経済」の発見

しかしですね、こうして改めて振り返ってみますと、この経済圏は私の努力で築き上げたもの……であるはずはもちろんなくて、おそらくはもともと、目にはさやかに見えずとも、昔からやってる人はずっとやっていたのだ。

でも、お金万能主義が浸透したせいで人づきあいが薄まってきた現代では実行する人も少なくなり、見えにくくなっていただけなのだと思う。その鉱脈を、たまたま私は掘り当ててしまったのだ。「あげる」という、止むに止まれず始めた人生初の行動が、まさかこの鉱脈を掘り当てるカギだとは思いもしなかったのだから、誠にラッキーであったというほかない。

何よりこの地下経済圏が素晴らしいのは、一旦掘り当ててしまえば尽きることがないということである。それどころか使えば使うほど、どんどん雪だるま式に鉱脈は太く確かなものになっていくのだ。勝ち負けもないので誰かが独り勝ちすることもない。そして何度も書くが、ほぼノーコスト。

そう考えると、これはもうほとんど魔法の杖のような気がしてくる。誰もがアクセスできる、尽きることのない黄金の泉! 

われらが資本主義経済は格差拡大と自然破壊で深刻な行き詰まりを見せておりまして、要するにかなりヤバい状況になっているわけですが、いやいやいや、われらの生き残る道はそれだけじゃなかったのだよ! いやー、この発見はほとんどノーベル経済学賞レベルなんじゃ……?

などという戯言はさておきまして、真面目な話、発見者としましてはぜひこの「人生を救う経済」を多くの方に体験していただきたく、次回は誰もがこの地下経済圏にアクセスする方法とコツを詳しく書く所存である。

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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