「お金不要」で次々とモノが届く「地下経済」の内情 「本当のコスパ最高」は東京のど真ん中にあった

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口火を切ったのは豆腐屋である。

ある日、いつものように油揚げを買いに行くと、「ところでお姉さん、米は食べるんだろ?」。え、コメ? いやもちろん毎日食べておりますが……どういうこと? 

「いや、なんかたくさんもらっちゃって、うちじゃあ食い切れないんだわ。よかったら持って行きな」と、おしゃれに小分けされた高級そうなコメを、ドサッと10パックほど手渡された。

ええっ? いや……いいんですか? と言いながら、重い紙袋に自転車のハンドルを取られながらありがとうございますと図々しく持って帰る。

さらに数日後。「ところでお姉さん、魚は食うのかい?」。え? いやもちろん食べますとも。「いやね、配達先の居酒屋で魚のアラを大将がくれるわけ。でもうちじゃあなかなか食い切れないからさ……後で持ってくよ」。

半信半疑ながら夕方帰宅すると、玄関のドアノブに白い袋がブラーンと下がっておりまして、中を見ればなんと立派な鯛のアラがドドンと3つ! ちなみにわが家は冷蔵庫がないのでこの予期せぬ「大漁」にはさすがに焦り、ネットで調べて「一夜干し」にしたんですが、いやーこれがうまいのなんのって! 

余談だがこれ以降、魚は「干して食らう」ことが当たり前になった。ピンチはチャンス。何事もやってみるもんですな。

「何も差し上げていない人」から届いたもの

そして不思議なのは、このころから次第に「何も差し上げていない人」からも、何かをもらえるようになったということである。

こちらの口火を切ったのは、隣のマンションにお住まいの、近所でバルを営むご夫婦。このバルには何度か行ったことがあって、雑談の結果隣に住んでいることが判明したというご縁なのだが、ある日帰宅すると、郵便受けに「麩」が1パック。

「おとなりです。乾物なら冷蔵庫なくても大丈夫だよね!」とのメモ入り。以後、まとめ買いしたアボカドやらシソやらが「手伝って~」のメモと共に放り込まれるようになった。

お次は銭湯の常連仲間のおばあさん。たわいもない雑談をするうちになぜか、一人暮らしの私をたいそう気の毒がってくれて、海苔巻きやら豆ご飯やら煮しめやら、手間のかかるものをお造りになった時は郵便受けに「お電話ください」のメモが。

電話すると「食べる? じゃあ取りにいらっしゃい」。喜んで取りに行くと、ノリやらお茶やらタクアンやらのオマケもどっさり入った紙袋を用意して待っていてくださる。まるで田舎の親戚である。

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