「おすそ分け」を始めた私が得た「思わぬ副産物」 物のやり取りがお互いの「空気」を変化させる

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このリストにあるお店は、そもそも何度か通ってわずかながらも顔見知りになっていた店で、だからこそ「もらっていただく」ことができたのだと思う。

だってお金で買うのとは違い、どこの誰ともわからぬ相手からもらった食べ物など怖くて食べられないではないか。つまりは、もらっていただけるというのは「あなたを信頼しています」というメッセージなのだ。

そう思えば、私のごとき怪しい外見の怪しい女から躊躇なくものをもらってくださった方々の心の大きさを思わずにはいられない。そして、そもそも差し上げたものがちゃんと食べられたか、美味しかったかのフォローをした私も偉かったと思う。その一つ一つの行為が、お互いの信頼の積み重ねだったのだ。

これは、お金のやり取りだけでは得られないことである。

ものをあげるというパワー

誤解なきよう言っておけば、もちろんお金のやり取りは大事だ。こうしたお店も、お客がいてちゃんとお金を払っているから成り立っているのである。もちろん私も客の一人としてお金を使う。

でももしかすると、人が助け合って生きていくためには、お金のやり取りだけでは「十分」ではないんじゃないだろうか? お金を介さないモノのやり取り、信頼のやり取りがあって初めて、人と人の関係が完成していくんじゃないだろうか?

昔、モノがなく不便だった時代は、そんなこと意識しなくても人は自然に助け合い信頼を築くことができたのだろう。でも今は、普通に生きているだけではお金という便利なものについ依存してしまう。だからみんな孤独なんじゃないだろうか?

ものをあげるというパワーは、実はものすごく侮れないのかもしれないと思う今日この頃である。

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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