「モノ申す財務次官」はなぜ論文を発表したのか 香取・上智大教授に聞く「政治家と官僚の関係」
――矢野氏への批判の1つに、「選挙で選ばれたわけでない公務員が政治家の政策決定に口をはさむな」というものがあります。
最終的に政策を決めるのは政治家だというのは当然だ。民主主義国家なのだから国民に対して最終的な責任を負っているのは政治家であり、官僚は政治家に仕えるのが仕事だ。人事を含めて、政治家が統率することは間違っていない。
問題は、その政策をどのように決めているかだ。それは、官僚機構というマシーンをどのように使いこなすかであり、政治家には使いこなす能力が要求されている。それこそが指導力やマネジメント能力というものであって、民間企業の経営者に求められているものと同じだ。
官僚機構を動かすには、そもそも官僚機構の動かし方をわかっていないといけない。組織は人間によってできているのであり、組織はどう作られ、官僚とはどんな考え方をする人間なのか、どのように指示をすればどのように官僚は行動するのか、といったことを知っている必要がある。
基本的な関係は「経営者と部下」
――民間企業における経営者と部下の関係にも共通するものですね。
経営者もそうだが、政治家が人の意見を聞く耳を持っているかが非常に重要だ。政治家には当然、自分のやりたいことがあって、信念や理想もある。しかし、世の中の正解は一つではない。世の中にはいろいろな考え方があるし、同じ山でも登り方はいろいろだ。他者の意見を聞いて議論をして初めて物事は決まる。
「私はこう思うからこうする」というのは、信念と呼ぶこともできるが、独りよがりになる危険もある。官僚機構は、同じ仕事をずっとやってきた専門的なプロ集団だ。もちろん、政治家は官僚機構とは別の情報源やチャネルを持っており、官僚機構の言うとおりにやる必要はない。しかし、実際に政府の仕事をしてきた人たち(官僚)がどう考えているか、今の制度はなぜこのように作られたのかなどを聞いてセカンドチョイス、サードチョイスを考え、状況に合わせて物事を判断していく必要がある。
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