自民総裁選への出馬を岸田文雄氏が迷うワケ 派内の主戦論は高まるばかりなのに
サムライブルーの躍動がもたらした興奮が沈静化した永田町では、延長国会の与野党攻防を横目に、自民党内での9月総裁選をにらんだ駆け引きが本格化してきた。注目の的はやはり、"ポスト安倍"の有力候補と目される岸田文雄政調会長の去就で、おひざ元の岸田派(宏池会)内では日増しに主戦論が強まっているが、岸田氏は「最後は私の判断」とこれまでの抑制的な態度を変える気配がない。
現在の党内情勢からみて、総裁選での安倍晋三首相の「3選」は既定路線化しているが、岸田氏が出馬すれば「戦いの構図」は大きく変わる。岸田氏と並ぶ有力候補の石破茂元幹事長や、初の女性首相を目指す野田聖子総務相は、すでに出馬の意思を明確にしている。それだけに、岸田氏の慎重姿勢には派内外から「優柔不断」の批判もつきまとうが、「迷うのには、それなりの理由がある」(派長老)のだ。
首相はここにきて、秋以降の経済運営や自らの首脳外交にも言及するなど、史上最長政権につながる総裁3選に自信満々だ。「もり・かけ疑惑」も含めたスキャンダル連発で5月連休前後には急落した内閣支持率もここにきて回復基調が目立ち、党内にも「国益のためには安倍政権の継続が必要」(細田派幹部)との声がじわじわと広がる。
首相にとって、党内の圧倒的支持による3選がその後の「1強維持」にもつながるだけに「総裁選を消化試合にしたい」(側近)との思惑も隠せない。首相サイドは、小派閥領袖の石破氏と無派閥の野田氏の2人が相手なら「首相の大勝は確実」(細田派幹部)と読むが、党内第4派閥領袖の岸田氏が出馬して他派と連携した場合、想定していた「圧勝の構図」が崩れかねないだけに、同氏の動向に神経を尖らせる。
「2位狙い」でも地方票が弱点に
首相は、今国会の大幅会期延長を決断する直前の6月18日夜、都内の日本料理店に岸田氏を招き、2人だけで密談した。両氏は昨年夏以降、政局の節目ごとに差しの会談を積み重ねているが、岸田氏は「一貫して総裁選への対応は明言してこなかった」(側近)とされる。18日の会談でも岸田氏は「派内には主戦論が多いが、出るか出ないかは決めていない」と繰り返した。これに対し、首相は「派内をまとめるのは大変ですね」と応じたが、会談後は周辺に「(岸田氏は)決断力がない」と不快感をにじませたという。
総裁選への出馬経験がない岸田氏だが、有力派閥の領袖として「出馬する以上は、納得できる結果を残さなければならない」(側近)との使命感は強く、「首相に負けても、大差の3位以下では次のチャンスもなくなる」(同)との不安も隠せない。今回の総裁選は、国会議員票と党員・党友などによる地方票が、いずれも405の合計810票となる見通しで、国会議員は1人1票、地方票は党員など有権者からの各候補別投票数に応じてドント方式でそれぞれに配分する形で実施される。
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