自民総裁選への出馬を岸田文雄氏が迷うワケ 派内の主戦論は高まるばかりなのに

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仮に首相と石破、岸田、野田の4氏による総裁選となれば、議員票では最大派閥の細田派(94人)に第2派閥の麻生派(59人)と第5派閥の二階派(44人)などの支持を得ている首相がすでに半数前後を固めているため、残りを石破氏ら3氏が奪い合う構図となる。

岸田氏が狙うのは「岸田派とは政治理念が共通する」と語る竹下亘総務会長との連携で、岸田派(48人)と第3派閥の竹下派(55人)で100票余りを確保し、さらに宏池会系の谷垣グループ(無派閥20人程度)の支持も取り付ければ、議員票で首相に次ぐ2位となるのは確実だ。党内では「その場合、石破氏は60票前後で野田氏は30票程度」(自民幹部)と読む向きもある。

岸田氏の弱点は議員票と同じ票数となる地方票だ。配分方式は異なるが、5人が立候補した6年前の総裁選では石破氏が地方票で首相にダブルスコアに近い差をつけて1回戦のトップとなったが、国会議員による決選投票で首相に逆転された。ただ、その後も石破氏は幹事長や地方創生相として地方行脚を続け地方での人気はなお根強いとされる。ところが、地方政治にはほとんど絡まない外相を4年半も続けた岸田氏は、本格的地方回りを始めたのが政調会長に就任した昨夏以降で、「地方での知名度では石破に大差をつけられている」(岸田派幹部)のが実態だからだ。

地方党員などを対象とした党の調査でも、首相に次ぐ支持を集める石破氏に対し、岸田氏は野田氏とともに大差の最下位争いとされる。このため、議員票で岸田氏が石破氏を50票前後リードしても地方票で逆転されて、合計では岸田氏が3位以下となる可能性が指摘されている。

一般国民を対象とした各メディアの世論調査でも「首相にしたい政治家」では安倍、石破両氏が競り合い、岸田、野田両氏への支持は少数にとどまるとの結果が多い。このため、「もし、地方票で野田氏にも負けでもしたら、大派閥領袖としての面子は丸つぶれ」(自民幹部)となり、次の総裁選への挑戦資格さえ失いかねない。

「宏池会のトラウマ」、先輩・加藤氏の失敗

こうした票読みとは別に、岸田氏が悩むのは首相との関係だ。初当選が同期で地元も近く、「性格的にも馬が合う」(岸田氏)ことで首相と岸田氏は4半世紀にわたる親交を続けてきた。それだけに「首相に弓を引く形で出馬して信頼関係に傷がつくことへの不安は隠せない」(岸田派若手)からだ。その岸田氏が総裁選を話題にする時、たびたび持ち出すのが派閥領袖の先輩である故・加藤紘一元幹事長の失敗だ。

故・宮沢喜一元首相から派閥(宏池会)を受け継いだ加藤氏は、小渕恵三氏(故人)が総裁(首相)だった1999年の総裁選で、無投票再選を狙う小渕氏を裏切る形で「さわやかな総裁選論争」を掲げて出馬に踏み切った。小渕氏はこの加藤氏の行動に「俺を裏切った」と激怒して加藤派を冷遇し、翌2000年春に小渕氏が脳梗塞で緊急入院して退陣を余儀なくされた際も、後継をめぐる「密室の談合」で加藤氏が外され、総裁選に出たこともない森喜朗氏が総裁(首相)の座に就いた。

これが、同年11月の森首相退陣を求めたいわゆる「加藤の乱」につながったが、結果的に名門派閥の宏池会は分裂し、騒動を起こした加藤氏は首相への道を閉ざされた。

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