自民総裁選への出馬を岸田文雄氏が迷うワケ 派内の主戦論は高まるばかりなのに

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当時、宏池会の若手議員として加藤氏の行動を見守った岸田氏は「加藤さんの轍は踏みたくない」と周囲に繰り返すという。首相と岸田氏の密談から2日後の6月20日夜、首相は都内で麻生太郎副総理兼財務相、二階俊博幹事長や麻生、二階両派幹部と会食したが、その席で麻生氏らが「総裁選に挑んで負けた派閥は、冷遇される覚悟を持つべきだ」と息巻いたとされる。そうした状況が、「首相の3選が確実視される状況であえて総裁選に出馬すれば、首相やその支持勢力に裏切り者扱いされ、その後の人事などで報復されるのでは」(岸田派中堅)との岸田氏の怯えにつながっている。

そこで出てくるのが首相からの「禅譲」への期待だ。昨年暮れには永田町で「首相は岸田氏が3選に協力すれば、次の任期中の2020年の東京五輪後に退陣表明し、後継に岸田氏を指名する」との禅譲説が流れた。「出所は首相サイド」(自民幹部)とされ、岸田派内でも「現状では岸田政権実現の道はそれしかない」(若手)との声が漏れた。

たしかに、今回出馬を見送って3年後の2021年の総裁選に出馬しても、石破氏や野田氏だけでなく、国民的人気と知名度を持つ河野太郎氏(麻生派)や小泉進次郎氏(無派閥)が参戦すれば岸田氏の苦戦は免れないし、首相の出身派閥の細田派の支援も「期待するほうが愚か」(首相経験者)というのが政界の常識だ。

だからこそ「首相の院政も覚悟して禅譲を狙うしかない」という発想が浮かぶのだ。過去の総裁選びでも、首相(総裁)が任期中に辞任した場合は「実力者の談合」や「両院議員総会での形式的投票」で後継者が決まったケースが少なくない。そうした歴史を踏まえれば、首相が1強を維持したまま余力を残して途中退陣して岸田氏を後継指名すれば岸田政権が誕生するというわけだ。

はかない「禅譲」期待、ありえない「3年後の保証」

自民党の過去の政権争いでも「禅譲論」は何度も浮上した。有名なのは福田赳夫氏と大平正芳氏(いずれも元首相で故人)によるいわゆる「大福密約」だ。当時の三木武夫首相(故人)が1976年12月の衆院選での自民敗北で退陣した際、後継をめぐって福田、大平両氏が「まず福田氏が首相になり、2年後に大平氏に政権を譲る」との密約を交わしたとされるが、福田氏が約束を反故にして78年の総裁選に出馬し、幹事長のまま出馬した大平氏が逆転勝利した。当時の福田派と大平派は現在の細田派と岸田派の源流だけに、なにやら因縁深い歴史ではある。

ただ、党内では「現在の政治状況からみても、禅譲などあり得ないし、そんなことをすれば政治不信を招くだけ」(長老)との声が支配的だ。そもそも、「首相の政権運営が順調なら途中退陣するはずがない」(同)のも事実。しかも、後継首相に残された任期はわずか1年で改めて総裁選に臨むことになるだけに、禅譲の時点で岸田氏への圧倒的な党内支持がないかぎり成り立たない話だ。

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