自民総裁選への出馬を岸田文雄氏が迷うワケ 派内の主戦論は高まるばかりなのに

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岸田派内では今年初めまでは「主戦論と禅譲期待論が半々だった」とされるが、ここにきて主戦論が一気に高まったのは、「戦わない政治家は国民もリーダーとして評価しない」(派長老)という常識論からだ。同派では6月から中堅や若手議員を区分けする形で個別の会合を重ねているが、これまでのところ「主戦論が多数派」となっている。

2日夜に同派当選1~2回議員4人と岸田氏が会食した際も全員が「出馬すべし」と迫ったが、岸田氏は「最後は私が判断させてもらう。どんな判断でも最後は一致結束して進みたい」と答えるにとどめたとされる。6年前の総裁選に同派から出馬した林芳正文科相も「自民党内の政策論争を国民に訴えるよい機会」と今回は岸田氏の背中を押す。

そうした中、岸田氏が悩むのは「出馬の大義名分」だ。第2次安倍政権以降、外相、政調会長と党内閣の主要ポストで政権を支えてきただけに、首相の政策運営を批判することは「天に唾する」(官邸筋)ことにもなりかねない。そこで周囲が検討しているのが首相との政治手法の違いだ。岸田氏が3日の仙台市内での講演で「トップダウンが効きすぎることで、党の議論がなかなか政府の政策に反映されていないのではないか」と暗に官邸主導が際立つ首相の政治手法を批判したのもその一環とみられている。

「真面目でいい人」の決断やいかに 

3日未明のキックオフとなったサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会決勝トーナメント1回戦では、日本代表が優勝候補のベルギーに惜敗した。睡眠を削ってテレビ観戦したとされる首相は同日朝、記者団に「惜しかった。でも、代表の皆さんにありがとうと言いたい。この2週間、本当にいい夢を見させてもらった」と日本代表の予想外の活躍を満面の笑顔でほめたたえた。

その一方で、岸田氏は同日の党内の会合で、日本代表が土壇場のアディショナルタイムで逆転負けしたことについて「やはり、世の中は一寸先は闇ということだ」とまじめな表情で残念がった。どんなことでも前向きに自己アピールに利用する首相と、周囲の反応に気をつかう岸田氏の対照が際立った一幕だ。果たして「真面目でいい人が売り物」(自民幹部)とされる岸田氏が、禅譲期待を振り捨てて首相に歯向かう決断ができるのかどうか。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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