日朝会談、安倍首相も付け込まれる懸念あり 笑顔の「米朝会談」は北朝鮮が優勢だった

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トランプ大統領は中間選挙が、安倍首相は総裁3選が最も気になるテーマ。これでは北朝鮮の金委員長に足元を見られてしまう(写真: REUTERS/Kevin Lamarque)

シンガポールの超高級ホテルを舞台としたドナルド・トランプ米国大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による史上初の6.12米朝首脳会談には、内外から「会ったことだけが成果で、異端のリーダー2人による演出過剰な政治ショー」(外交専門家)との厳しい見方が広がる。トランプ大統領は会談結果を「期待をはるかに超える内容」などと自賛したが、世界が注視する「北朝鮮の非核化」実現への具体策は示されず、事前に喧伝された「朝鮮戦争終結」の合意も先送りとなった。

トランブ大統領との盟友関係を誇る安倍晋三首相が、事前に繰り返し求めた日本人拉致問題の協議も、同大統領は「会談で提起した」と語っただけで、金委員長を含めた北朝鮮側は反応せず、会談を受けてコメントした首相にも笑顔がなかった。米朝首脳だけの会談から関係者も含めた昼食会まで合計約4時間にわたった「米朝劇場」は、両首脳の握手と笑顔ばかりが際立ったが、過去四半世紀の非核化交渉では北朝鮮が「合意後の裏切り」を続けてきただけに、今回も「歴史は繰り返す」の不安が拭えないのが実情だ。

「やる、やらない、やっぱりやる」と曲折の末に実現した歴史的な米朝首脳会談。ダークスーツに真っ赤なネクタイのトランプ大統領と黒の人民服姿の金委員長は、12日午前からシンガポールの保養地セントーサ島のカペラホテルで、約40分間の単独会談と両国高官を交えた拡大会合を行い、さらに実務者も加えたワーキングランチで協議した結果、敵対を続けてきた米朝関係の改善をうたった共同声明に署名した。

「CVID」の文言ないのに得意満面のトランプ氏

同声明は、①大統領は北朝鮮に安全の保証を与え、委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた責務を再確認、②米朝双方の国民の平和と繁栄を希求する意思に基づき、新しい米朝関係の構築を約束、③朝鮮半島の永続的で安定的な平和体制の構築に尽力―などが軸。「要するに、大統領は北朝鮮に『体制保証』を与え、委員長は『朝鮮半島の完全な非核化』を約束したという大枠の合意」(外務省)だ。

事前に米側が合意の前提条件としていた「北朝鮮の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)の文言はなく、非核化の具体的工程や期限、検証方法なども盛り込まれなかった。

会談後、12日夕刻に単独で記者会見したトランプ大統領は、「誰も予想できなかったほどうまくいった」と得意満面で、非核化への具体策のない点を質す欧米記者団には「時間がなかった。たった1日だから」と開き直った。さらにトランプ氏は、米朝関係改善に伴い将来的に在韓米軍を削減・撤退させるとの持論も展開し、北朝鮮が神経を尖らせる米韓合同軍事演習の「中止」も明言した。

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