日朝会談、安倍首相も付け込まれる懸念あり 笑顔の「米朝会談」は北朝鮮が優勢だった

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14日に72歳の誕生日を迎えるトランプ大統領と今年1月に34歳になったとされる金委員長。親子ほどの年の差も意識してか、大統領はテレビカメラの前で委員長の背中を押したり、会談時の委員長の座る席を指し示すなど、人生の大先輩らしく振る舞い、会談での主導権が自分の側にあることをアピールした。しかし、委員長も大統領と並んで歩く際、「世界中の多くの人々はSF映画のファンタジーだと思っているでしょうね」と語りかけて、首脳同士の対等な関係を演出するなど、経験不足を補うしたたかさを垣間見せた。

歴史的な一大政治イベントとなったこの米朝首脳会談だが、結果だけ見れば「小国の若い委員長が主張を押し通し、超大国の老大統領が譲歩を強いられた」(外相経験者)と解説する向きが多い。米メディアは「単なる政治ショーに終わった」(CNN)「非核化への具体策も時間的デッドラインもない」(NYタイムズ)などと極めて厳しく論評したのに対し、北朝鮮国営メディアは首脳会談の写真を大量に掲載したうえで、委員長の「偉業」を讃えるという対照的な反応となったのも、それを裏書きしている。

大統領は北の「サラミ戦術」を容認したのか

特に、北朝鮮国営メディアの朝鮮中央通信は13日、米朝両首脳が朝鮮半島の非核化などの過程について「段階別、同時行動の原則」の順守が重要との認識で一致した、と報道した。北朝鮮の主張する「段階的な非核化」に米国が同意したとの内容だ。ただ米側は「非核化がきちんと履行されれば支援する」との立場で、今後の米朝非核化交渉での対立要因となりかねない。もともと、北朝鮮は非核化の進展に応じて順次経済支援を獲得するといういわゆる"サラミ戦術"を狙っているとされ、一部では「大統領が2人だけの会談で委員長の要求を容認したのでは」との疑念すら出ている。

この報道に先立ち、トランプ大統領は帰国の機中で自らのツイッターに投稿し「素晴らしいシンガポール訪問を終えて岐路についた。北朝鮮は非核化に向けて大きく前進した。もうミサイル発射も開発も終わり、施設も閉鎖する。金正恩とともにやっていく。戦争を起こすことは誰でもできるが勇敢な人間だけが平和を作ることができるのだ」と今後の非核化交渉への楽観的見通しを強調した。

大統領の言動は「11月の米中間選挙に向けて、ことさら会談の成果をアピールする狙い」(外務省)からとされるが、「そこが北朝鮮に付け込まれる原因」(同)との不安も広がる。

一方、会談直前まで大統領との電話会談などで綿密な事前調整を行ってきた安倍首相は、12日夕、シンガポールでトランプ氏の記者会見が続いている最中に、首相官邸で記者団の取材に応じた。首相は「朝鮮半島の完全な非核化に向けた、金正恩委員長の意思を改めて文書の形で確認した。北朝鮮をめぐる諸懸案の包括的な解決に向けた一歩だと支持する」と共同声明を高く評価した。

ただ、首相が評価した共同声明には、肝心の北朝鮮非核化について、政府がこれまで主張してきた非核化の具体的な期限や「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)との文言は盛り込まれなかった。このため政府部内からも「このままでは非核化は骨抜きになる」(防衛省幹部)と失望の声も漏れてくる。

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