「モノ申す財務次官」はなぜ論文を発表したのか 香取・上智大教授に聞く「政治家と官僚の関係」
(官邸が省庁人事を差配する)内閣人事局への批判があるが、政治家が人事をするのは間違っていない。しかし、民間企業と同様、官邸の人事とはその組織を最大限に動かすにはどの人材をどこに配置すればいいかということであり、人材の能力を見て、「組織を動かす」という目的を完遂できるようにしないといけない。自分の言うことを聞くかどうかで人事を決めるのではない。
――安倍政権では、「アベノマスク」(2020年春に全世帯への布マスク2枚を配布し、事業予算は約466億円)に代表されるように政策やオペレーションの失敗が目立ちました。
政治がうまくオペレーションできないことは、コロナ危機対応のさまざまな場面で明らかになった。マスクやワクチンなど医療物資を所管し動かせるのはどの省庁か、物流や輸入ならどこの省庁なのか、地方自治体とはどう連携するか、それでも手が届かないところはどうやって民間を使うか。そうしたことは本来、司令塔である官邸官僚が考えないといけないことだ。
しかし実際のオペレーションを見ていると、霞が関全体を動かせていないし、各省庁に関係する業者も動かせていない。何かあるたびに「○○本部」をたくさん作るが、それらは機能せず、単に総理が「右だ」「左だ」というのを投げているだけだ。官邸官僚に各省庁やそれに関係する業者をまとめる力量がないから、最終的には「民間に丸投げ」ということになる。
こうした手際の悪い、兵力の逐次投入でも何とかなっているのは、全部現場が帳尻を合わせてきたからだ。その意味では戦争の頃の日本と変わらない。コロナ危機は、昨今の間違った政治主導が抱えていた問題を全部表に出した。揚げ句の果てには記録を残さず、誰がいつ決めたのかもはっきりせず、科学的根拠も示さない。どうしてですかと聞けば、「政治的判断です」と平気で言う。
国民から見れば政治家も役人も同罪
――このような政治状況の中で、矢野氏の問題提起が出てきたということですね。
矢野氏の論文に対しては、「言っていることは正論だが、そういう予算を作って借金を積み上げてきたのは誰か、あなたたちの責任ではないか」という指摘があった。私はそのとおりだと思う。矢野氏の言ったことは正しいが、国民の側からすれば、政治家も役人も同罪だ。こんな財政にしたのは、政治家や財務省のあなたたちだろうということになる。
首相や政治家に言われたとおりに予算を組んでいるだけなら誰でもできる。国の財政を預かる者として、政治家にも言うべきことはきちんと言うことが財務官僚の矜持だ、というのが、彼の口癖だ。実際、矢野氏はつねづね財務省内で後輩たちにそう言ってきた。
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