冷戦終結から32年、EUに再び築かれた「壁」の正体 「ベルリンの壁」の記憶を呼び起こす巨大な壁

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ギリシャがトルコとの間に築いた40kmにわたる壁(写真:AP/アフロ)

ベルリンの壁が1989年11月9日に崩壊して約32年が経つヨーロッパで、今また国境の壁の建設が進められている。今度は東側から西側への逃亡を防ぐためではなく、アフガニスタンでタリバンが実権を握ったことで、ヨーロッパに押し寄せる難民・移民の流入を阻止するためだ。

トルコやベラルーシと国境を接する欧州連合(EU)の東側加盟国が国境の壁建設や鉄条網の敷設に余念がない。

アフガニスタンからアメリカをはじめとする外国駐留軍が完全撤収したのを受け、タリバンの強権統治を逃れるアフガン難民の大量流入を恐れるポーランドとバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)の首相らは8月23日、「ベラルーシのルカシェンコ大統領が意図的に隣接するポーランドなど4カ国に不法移民を送り込むよう仕掛けている」と非難した。

リトアニアやポーランドなどは、移民流入を警戒し鉄条網の整備を進め、国境警備兵を増員している。9月、ポーランドはベラルーシとの国境地帯に非常事態宣言を発令した。すでにポーランド国境沿いにはアフガニスタンなどからの移民が到着し、国境沿いで待機している。今後、厳寒の季節を迎える中東欧なだけに人道問題に発展しそうだ。

ギリシャでは40kmにわたる壁が完成

またギリシャでは、以前から進めていたトルコとの間の40キロにわたる壁の建設が8月に完了した。ギリシャは2010年代、シリアやアフガン、イラクからの難民の主要移動ルートとなり、2015年のシリア内戦で100万人以上がヨーロッパに押し寄せたときの教訓から、壁を建設した。

そして現在、難民・移民の流入口であるEU東側の12カ国が、「不法移民流入はEUの問題だ」として、EUに塀の建設費を要求している。欧州委員会は壁の建設について「自由で開かれたEU精神に反する」としており、建設費の負担を拒否しているものの、中止の要求はしていない。

冷戦時代は、東西ドイツを分断した「ベルリンの壁」だけでなく、チェコスロバキア(当時)やハンガリーにも物理的障壁が築かれ、旧ソビエト連邦と西側ヨーロッパが対峙していた。

2004年にEU加盟を果たした中東欧諸国は過去に西側国境沿いに壁を築いたのが、今回は難民・移民流入を警戒して東側に壁を建設し、鉄条網を敷設する事態になっている。

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