冷戦終結から32年、EUに再び築かれた「壁」の正体 「ベルリンの壁」の記憶を呼び起こす巨大な壁
アフガニスタンがタリバンの手に落ちたことで急増した難民・移民は、ただでさえコロナ禍で経済的ダメージを受け、コロナ対策の遅れで加盟国からの不信感が高まるEUに、追い打ちをかける結果をもたらしている。
とくにEU域内の豊かな国々と発展途上の中東欧加盟国の分断に拍車をかけ、特に東西冷戦以降、再度、壁建設を強いられることへの複雑な思いが暗い影を落としている。
十分な情報共有なしのアメリカ駐留軍の完全撤収決行は、アフガニスタンに駐留していた北大西洋条約機構(NATO)軍に参加したEU加盟国の軍にもダメージを与えた。
アメリカの9・11同時多発テロを契機に戦後始めて本格的な独軍海外派兵を議会で承認したドイツでは、20年の駐留の意義が問われ、批判する国民が多い。さらに結果としてアフガン難民・移民が押し寄せている実情に「アメリカは軍撤収の影響は地政学的に少ないが、ヨーロッパには大いに迷惑だ」との批判の声があがっている。
キリスト教の価値観が強く、イスラム教徒を警戒
実はポーランドやハンガリーなど旧ソビエト連邦に属していた国々は地下で信仰を守ってきたキリスト教信者が多く、民主化されて以降、イスラム教徒を警戒する国民感情が強く存在する。
ポーランド憲法裁判所は昨年10月22日、胎児に障害があった場合の人工妊娠中絶を違憲とする判決を下し、ヨーロッパでほぼ完全に妊娠中絶が禁じられる国になった。ハンガリー議会は今年6月、通称、反LGBTQ法案を可決した。EU加盟時にEU法に従うことを約束した両国は今、批判の的になっている。
これらはキリスト教の価値観に即した宗教的判断で、いかに中東欧にキリスト教の価値観が強く根付いているかを表したものだ。EU側は、コロナ復興基金の給付を延期するなどして圧力を加えているが、EU内ではイギリスに次ぐ離脱、「ポレグジット」になる可能性も噂されている。
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