冷戦終結から32年、EUに再び築かれた「壁」の正体 「ベルリンの壁」の記憶を呼び起こす巨大な壁

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そんな中東欧の国々とバルト三国は、EU内では反イスラムの急先鋒で、難民受け入れを拒否している大きな理由の一つになっている。

西ヨーロッパ諸国でイスラム系移民を大量に受け入れた結果、自由主義の価値観に同化しようとしないイスラム系移民が社会を根底から揺さぶっている姿を見た中東欧加盟国は、イスラム系移民を自国に定住させることを拒んでいる。

2015年に風刺週刊紙シャルリ・エブド編集部襲撃テロやパリで発生した130人以上が犠牲となった大規模なパリ同時多発テロなど、ヨーロッパで最もテロが頻発するフランスは、中東欧が難民・移民を受け入れない姿勢に批判的な一方、難民・移民に紛れ込んで入域するテロリストへの警戒も強めている。人道的立場では開かれたヨーロッパをめざすEUだが、テロリストの流入は防ぎたいところだ。

大規模なテロが実行される危険性をつねに警戒

実際、2015年11月に起きたパリ同時多発テロの首謀者や、他のテロ実行犯の中にはシリアやイラクの戦闘地域から難民に紛れ込んでフランスに入国した人物も複数確認されている。

彼らが指導する在仏のアラブ系移民の若者は大規模なテロが実行される危険性をつねに警戒している。イスラム系移民を嫌悪するのは中東欧の人々だけでなく、西ヨーロッパや北欧にも存在する。

フランスでは19歳の青年がテロを計画していたとして9月27日に国内治安総局(DGSI)によって身柄を拘束され、テロ準備罪で起訴された。

フランス西部ルアーブル出身の青年は、来年4月20日のヒトラーの誕生日に大量殺戮の形で、男の通っていた高校と近くのモスクを標的にテロを計画していた。さらに1999年に米コロラド州コロンバイン高校で発生した銃乱射事件で教員や容疑者を含む計15人が死亡したテロに匹敵するテロを実行したかったと供述している。

テロの専門家は、もし中東欧諸国にイスラム系移民が増えれば、フランス以上に人種差別主義者が増える可能性があると指摘している。とくに中東欧は民族間の対立による虐殺の歴史を抱えていることから、極右思想が過激化しやすい。

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