安河内:あまり経済的な動機というのは持ってなかったんですけれど……。ただ、でも、貪欲であったことは間違いないです。
斉藤:貪欲さは、スタート地点では必要な姿勢だと思うんですよ。
安河内:高校生の勉強合宿で何百人も教えるのですが、英語に対する貪欲さはとにかく低いですね。彼らが持っている動機といえば、大学入試でいい点数が取りたい、というくらいの感じで。私たちの時代よりも貪欲さは……。
斉藤:むしろ衰えてるかもしれないですね。
英語学習者が草食化している!
安河内:アメリカやイギリスのエンターテインメントがあまり入ってこなくなっているでしょう。100人くらいの高校生に、毎日、洋楽を聴くか質問してみると、100人中10人もいないくらいです。
斉藤:あ、そうですか……。
安河内:アメリカ映画も吹き替えで見てるし、『アナ雪』見てるっていっても、ほとんどが吹き替えで松たか子の歌声を聴いてるんですよ。なんというか、オーセンティック(本物)なエンターテインメントに対する貪欲さが、ほぼ衰え切っています。私たちの学生時代に皆を引っ張ってくれていた大きな動機のひとつが消滅しているのです。
斉藤:なるほど。僕もやっぱり洋楽が好きでしたし。
安河内:カッコよく歌いたいとか思ってましたよね。
斉藤:そう。リズムに合わせて歌おうとすると、それなりに正しい発音じゃないと歌えないですからね。
安河内:レット・イット・ゴーじゃダメですもんね。
斉藤:レリゴウッ!(Let it go.)
安河内:そういう部分のひとつのエンジンが完全に停止しているんですよね。
斉藤:それはよくないです。
安河内:よくないんです。一部には貪欲な子もいるんですよ。でも、ほとんどの人は日本の芸能人が大好きだし、日本のアニメが大好きだし、日本の映画が大好き。ボックスオフィス(映画興行成績を集積するサイト)10位のうち8本くらいが日本映画ですから。昔の逆ですね。
このたぐいの動機が消失しているということで、カッコよく英語を話すことに対するあこがれもあまりない。僕には不思議なのですけど。とはいっても、やはりいい大学には入らなくちゃいけないとは思ってる。
斉藤:そうすると、生の英語をそのまま理解するというよりも、入試の英語をなんとかごまかせたらいいやという姿勢が強まる。となると、入試英語自体のクオリティが問われる、となるわけですね。
安河内:子どもたちに「キミ、なんで英語を勉強するの?」と聞くと、たいがい皆「グローバル化、グローバル化」って校長先生が言ってるからそのまま答えるのですが、結局、そのグローバル化が何なのかはわかってないし、この日本のEFL(English as a Foreign Language)環境で生活していて、英語の必要性なんか感じるわけがないんですよ。中学生や高校生が。スーパー・イングリッシュ・ハイスクールに通ってても、休み時間は全部日本語でしゃべるし、家に帰ればずっと日本語のテレビを見てる。
留学での衝撃! 俺は英語ができない!?
斉藤:苦労話に戻ると、大学3年生のときにカリフォルニア大学のサンディエゴ校に留学したんですけど、そのときの苦労というのが、衝撃的なくらいの苦労ですよね。その前にTOEFLを受けたときも、英語自体が早くて聞き取りづらかったのですが、聞き取れたとしても、ボキャブラリーがとにかくいろんな分野にまたがっていてわからない。大学入試の英文学の世界を中心としたボキャブラリーと違ったんですよね。
それで、留学するでしょ。でも、レストランでオーダーしたものが出てこないとか、そういうのはしょっちゅうあるわけですよ。まさに日常茶飯事。オーダーしたものが3つ出てきたとか!
安河内:(爆笑)。
斉藤:Grilled(焼いたもの)と発音したつもりがThree(3つ)に聞こえたっていうんです。チキン・バーガーが3つ出てきたときは、さすがになえましたね。レジでももたついて、後ろに並んでる人にイラつかれるとか。
安河内:Paper or plastic?(紙袋にしますか、ビニール袋にしますか)とかね。
斉藤:何のことだか、まったくわからなかったです!
安河内:Never mind.(ま、いいや)ってあしらわれたり。
斉藤:ありました!! 「どうせわかんないだな、こいつ」みたいな。当時は便利な表現集とかもなかったですから、向こうに行ってぶっつけ本番で、けっこう、通じませんでしたよ。あと、当時、僕は受験英語出身でしたから、受験英語の例文がしみ付いているんです。普通の会話ではしないような言い方が。
そして、何よりもやっぱり書けない! 作文ができないのです。レポートを書かされるんですけど、ルームメイトはパパパパパッと書いちゃうのに、僕は、この場合は主語がこれでとか、不定詞が補語にきてとか考えていると、書けないんですよね。そういう悔しい思いはいろいろとしましたね。
安河内:斉藤先生のその話、読者にとっては勇気が出ますね。
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