「学び直しに失敗した父親」にその後何が起きたか 自分には不必要だと思っていると痛い目にあう
筆者(フェルドマン)の父親は、かなり優秀な化学者だったようですが、「学び直し」に失敗した1人ではないかと思っています。父は化学分野で修士号を取っていたため、第二次世界大戦中に徴兵されたものの、配属された部隊とともに欧州戦域には行かず、国立研究所に配属されました。彼は素晴らしい研究成果を上げ、研究所長に好かれ、高く評価されたようです。
所長は、「お前は博士の器だ。研究所が費用を出すから、働きながら隣の州立大学に博士号を取りに行ってはどうか」と勧めてくれました。しかし父は、「いや、いい研究は博士号がなくてもできます。しかも、子どもがすでに4人もいます。行かない方がいい」と断ったそうです。
次第にやる気を失ってしまった
その後、父の身に何が起きたでしょうか。20年後の直属の上司は、父をあまり評価せず、降格してしまったのです。降格されたものの、博士号がないため、ほかの研究所あるいは大学へ移ることができませんでした。研究所の仕事は続けられたのですが、次第にやる気を失い、体調を崩して退職。1990年に70歳で他界してしまいました。
葬儀が終わった後、元研究所長と話す機会がありました。とにかく科学を進歩させたいと考えていた元所長は、暗然とした顔で言ったのです。
「君のお父さんは、潜在能力を発揮することができませんでしたね」
胸が痛みましたが、その通りだと認めざるをえませんでした。もし父があの時、研究所長の勧めに従って学び直しをしていれば、人生はよりハッピーになり、科学の進歩にもさらに貢献できたはずです。
筆者にとっては、これが大きな人生の教訓です。「学び直し」をすれば、人生の選択肢が増えるだけではなく、状況が悪い方向に転換する時でも「脱出」ができます。これからは、万物流転の時代になると予想されます。学び直しは万物流転の「盾」でもあり「矛」でもある、ということです。
大きな転換は寿命の延長であり、学び直しを続けるものにとってはピンチではなく、むしろチャンスにもなりうると考えます。
本書のタイトルは、『盾と矛』です。中国の『三国志』に登場する、関羽や張飛が使っていた武具を思い出していただくとよいでしょう。「盾」は、剣・槍による打撃、弓矢による射撃から身を守る防具です。「矛」は、剣に長柄をつけた武器です。