これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学 マイケル・サンデル著/鬼澤忍訳 ~計算を超えた最善の生き方を考える
多くの読者は「正義」という言葉を聞けば、なんとなくうさんくささを感じるのではないだろうか。あるいは学生時代の青くさい議論がよみがえったりしないだろうか。「正義」は、今の日本社会に最もふさわしくない言葉かもしれない。
だが、私たちはつねに「正しいこと」を判断しなければ生きていけない。それも感覚的、情緒的にでなく、社会にとってどうか考えなければ、正しい行動は取れない。しかも今ほど、複雑に利害が絡み合った世界を解きほぐす論理的な枠組みや正義の原則が必要なときはない。本書は、その正義に関する基本的な考え方を教えてくれる。
多くの読者はベンサム流の「功利主義」、すなわち「道徳の至高の原理は幸福、すなわち苦痛に対する快楽の割合を最大化すること」、つまり「効用を最大化」するという考え方に慣れ親しんできたのではないだろうか。私たちが学んできた経済学や経営学は、「利潤の極大化」や「効用の極大化」であり、そこには正義という概念が入り込む余地はなかった。
著者は「われわれの議論の大半は、少なくとも表面上は経済的繁栄の促進と個人の自由の尊重に関するもの」と認めつつ、「道徳とは計算を超えた何か--人間相互の適切な接し方にかかわる何かである」と指摘する。「正義について考えるなら、最善の生き方について考えざるを得ない」のである。