これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学 マイケル・サンデル著/鬼澤忍訳 ~計算を超えた最善の生き方を考える
こうした立場からアリストテレス、ベンサム、ミル、カント、ロールズなどの政治哲学を紹介し、正義の本質を明らかにしようとする。さらにリバタリアン(自由至上主義者)やアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)など、現代アメリカ社会が直面する思想状況や社会問題に、正義の観点から切り込んで見せる。
何よりも本書の最大の特徴は、正義の問題を抽象論ではなく具体的なケースで説明しようとしていることだ。たとえばハリケーンの被害に見舞われたフロリダでの便乗値上げや、政府の支援を得た破綻した金融機関の幹部の高額ボーナスについて、どう判断すべきか。これも正義の問題なのである。
著者、サンデル教授は優れた政治哲学の啓蒙書を著し、同教授の「正義」に関する講義はハーバード大学で最も人気がある。講義はNHK教育テレビで放送され、本書はその講義のベースになったものだ。あえて率直な感想を言えば、本書は知的刺激に満ちた本ではあるが、学生との生き生きとした対話が行われるテレビ番組には残念ながら及ばない。テレビ番組のトランスクリプトが出版されることを期待したい。
Michael J. Sandel
1953年生まれ。米ハーバード大学教授。米ブランダイス大学を卒業後、英オックスフォード大学にて博士号取得。専門は政治哲学。2002年から05年にかけて大統領生命倫理評議会委員。1980年代のリベラル=コミュニタリアン論争で脚光を浴びる。
早川書房 2415円 380ページ
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