新生銀へTOB延長、SBIが固唾を呑む金融庁の出方 公的資金が注入され、国も約2割の株を保有
今後のTOBの行方を左右するのは新生銀行の公的資金の返済プランにかかっている。新生銀行は1998年前後から公的資金の注入を受け、1500億円を返したが、約3500億円が未返済となっている。
2000年に当時の谷垣禎一金融再生委員長は、公的資金の返済に関し、政府保有の新生銀行株の時価総額が500億円を超えることが条件との趣旨の国会答弁を行っている。
公的資金返済に必要な新生銀行の株価は、市場価格を大幅に上回る1株7500円程度となる。公的資金を司り、新生銀行の約2割の普通株を所有する国(預金保険機構など)、金融庁の出方が最大のカギを握る。
SBIは新生銀行の質問に丁寧に答えなければならない。行司役が金融庁だからだ。8月にSBIがTOB実施を正式申請すると、金融庁は「(国は)TOBに応募せず、あくまで中立を貫く」を前提に株の買い増しを認可した。
銀行を対象にした、しかも公的資金が入る銀行のTOBは逐次、金融庁にお伺いを立て、教科書どおりにTOBを行わなければならない。仮にSBIが新生銀行の50%超の株式を取得する場合、SBIが新生銀行の持株会社になるためには銀行法第52条など法令上の許可が必要で、金融庁の認可が前提となる。最後には大株主で新生銀行株の20%程度を有する国(預金保険機構など)との交渉が残ることになる。
11月にも開かれる臨時株主総会が焦点
SBIは9月28日に質問への回答を公表。新生銀行が質問で指摘した少数株主との間での利益相反について、少数株主を保護するために独立した委員による特別委員会を設けるほか、TOB期間も12月8日まで延長した。社外取締役の人数も、当初の「3分の1」以上から引き上げる方向だ。新生銀行は取締役7人のうち社外取締役は5人おり、3分の1以上とすると、ガバナンスが弱まる可能性があることを指摘されていた。
SBIのTOB延長を受け、現状、SBIのTOBについて賛否を「留保」している新生銀行の取締役会が買収に反対した場合「敵対的買収」へと移行し、11月にも開く臨時株主総会が焦点になる。
そもそも新生銀行は前身の日本長期信用銀行が一時国有化され、アメリカの投資ファンドに売却された銀行だ。買収したアメリカの投資ファンドは貸出債権について国が約束した「瑕疵担保条項」を数多く行使し、融資先を追い込み、貸出債権を国に買い戻させた。そして、貸出債権に付されていた引当金を取り崩し、高い収益を上げた。この時の新生銀行の「取引先を見放す」姿勢が、現在の新生銀行の苦境を決定づけたと言っていい。
同じく一時国有化された日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)は「瑕疵担保条項」の行使を極力抑えることで取引先の信頼を繋いだ。結果、2015年に公的資金を完済している。
アメリカの投資ファンドが去った後に、新生銀行の立て直しを担ったのが現社長の工藤氏とその前任社長の当麻茂樹氏にほかならない。ともに旧第一勧業銀(現みずほ銀行)の出身で、金融庁の意向を受けて「火中の栗を拾う登板」だった。「長銀は第一勧銀が母体となって昭和27(1952)年に設立された銀行で、自民党宏池会に近いとみられてきた。ハゲタカと言われたアメリカの投資ファンドにより焼野原となった新生銀行の再建を旧第一勧銀出身者に託したのはそのためだ」(メガバンク元役員)という。
資本の論理に立てば、SBIが勝利する可能性が高いが、はたして国、そして金融庁はSBIのTOBにどう対応するのか。
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