新生銀へTOB延長、SBIが固唾を呑む金融庁の出方 公的資金が注入され、国も約2割の株を保有

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新生銀行がTOBに対して買収防衛策の導入検討を発表した直後の9月22日、日本経済新聞に掲載されたSBIの「質的転換で活性化する地域金融機関」と題する全面広告が金融界の話題をさらった。

SBIの資産運用ノウハウを活用しながら、コスト削減を行い、21年3月期の純利益が黒字に転換した島根銀行をはじめ、福島、筑邦、清水、東和、仙台、きらやか、筑波の各銀行がSBIとの資本提携を機に収益がV字回復したか、棒グラフで示されている広告で、「新生銀行もSBIが買収すればこれ以上の収益改善が見込めると言っているようなものだ」(メガバンク幹部)と受け止められた。

広告では「「一燈照隅、万燈照国」という言葉のように、各行が愛する地域を照らす「一燈」となることで、燈火は広がり、「万燈」となって、国全体をくまなく照らすでしょう」と、中国の古典に精通した北尾氏ならではの格言が躍った。新生銀行の株主へのエールと言っていい。

後出しじゃんけんの買収防衛策

新生銀行が買収防衛策を講じることに北尾氏は「絶対に許せない」と語気を荒らげたとされる。新生銀行が導入する買収防衛策は有事型で、後出しじゃんけん。有事型は株主総会の決議を得ないで導入した場合、裁判所から差し止め命令を受けるリスクがある。

「買収防衛策としてはホワイトナイトに対して新株や金庫株を割り当てる手法もあるが、株主総会を開かずに譲渡できるのは発行済み株式の25%までで、48%を目指すSBIへの対抗措置とはなりえない。結局、新生銀行が採用した買収防衛策は既存の株主に新株予約権を無償で供与する内容に落ち着いた」(市場関係者)という。同時に、TOBの期間を10月25日から12月8日まで延長することを求めた。

SBIは当初、TOBの延長要請は「単なる時間稼ぎで、株主の利益を著しく損なう」と反発した。

ただ、その後、①株主総会の早期開催、②重要性の低い質問はせず、いたずらに検討期間を延長させないこと、③新生銀行の株主総会で買収防衛策の発動を審議する場合、TOBが株主の利益を損ねる恐れがあるとする具体的な根拠を示すこと、④総会でのSBIの議決権行使を認めなかったり、新生銀行が他社への新たな株式取得を働き掛けたりしないこと、を条件に一定期間のTOB延長を認める構えに転じた。

一方、新生銀行はTOB期限をできる限り延長させる間、ホワイトナイトを見つけることが最大の眼目で、ソニーグループやセブン&アイ・ホールディングス(HD)、企業再生ファンドなどとの水面下の交渉を行っている。

「セブン&アイHDは、長銀出身者が傘下のセブン銀行の社長を務めている。企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズの代表も長銀出身者。そうしたOB人脈を通じてホワイトナイトを探しているようだ」(メガバンク幹部)という。

しかし、本命視されるソニーグループやセブン・アイHDは消極的。SBIが提示したTOB価格が高いことに加え、ホワイトナイトが成功しても、買収後の新生銀行の企業価値を早期に引き上げるのは容易ではないためだ。

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