新生銀へTOB延長、SBIが固唾を呑む金融庁の出方 公的資金が注入され、国も約2割の株を保有

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こうした両社の確執には過去の経緯が影を落としている。SBIは2019年4月から新生銀行株を買い増し始め、同年夏にはSBIの北尾氏が新生銀行の工藤英之社長を訪ね、資本提携の提案を行った。

その際、北尾氏が工藤氏に手渡した「公的資金返済プラン」と題する書類には、①SBIが48%を上限に新生銀行株を取得(連結子会社化)、②自社株買いなどで一般株主の比率を低下、③公的資金を注入している国とSBIの議決権が計90%に達した段階で非上場化、④国の保有株を買い取り、公的資金を返済するといった項目が並んでいた。いわゆる「スクイーズアウト」を実施するという内容だ。

これに対し、新生銀行はSBIが提案する連結子会社化について「地域金融機関ビジネスにおいて、むしろ障害になり、利点がない」と結論付け、提案を断った。公的資金返済スキームについても「実現不可能」と回答した。

新生銀行関係者は「後から高い価格で国が買い取ることを想定しているのであれば、株主平等原則の観点から株主に最後までのプランを示す必要がある」と指摘。その場合は国に比べて圧倒的に安く売ることになる一般株主が、買い取りに応じない可能性が高くなり、実現は難しいと判断した。SBIからは「回答に異論はなく、戦略的な意味合いの出る出資比率は持たない」との返答があったという。

「信義にもとる男だな」

SBIは返答後も「引き続き資本業務提携の可能性について模索した」と言うが、新生銀行側は、提案を断った後は「SBIから資本提携の提案を受けていない」と反論している。

そればかりか新生銀行は今年3月にSBIとライバル関係にあるマネックス証券と包括提携を行い、SBI経営陣を激怒させた。東京都港区の泉ガーデンタワー20階の社長室で北尾氏は工藤氏を「信義にもとる男だな」と不満をぶちまけた。

北尾氏の新生銀行経営陣への不信は今年6月に開催された新生銀行の株主総会で爆発した。工藤社長はじめ、アーネストM.比嘉氏、槇原純氏、村山利栄氏の4役員の再任決議に反対票を投じたのだ。

株主総会では工藤氏ら役員は再任されたが、SBIは今回のTOBに際してもこの意向を変えておらず、TOB成立後、臨時株主総会の招集請求を行い、役員陣の全部または一部の交代を求める方針だ。「取締役メンバーの中には、ゴールドマン・サックス証券やマネックスグループなど、社外取締役の出身母体に特定の偏りがあるように見受けられる面もある」(SBI)とも指摘している。

また、SBIがTOBに踏み切る直接のきっかけとなったマネックス証券との提携についても傘下のSBI証券も提携を提案したが、新生銀行から何も連絡なく、マネックスとの提携発表を受けて「提案が受け入れられなかったことを知った」と主張している。

対する新生銀行側は有力な候補の1社としてSBI証券にも打診したが、経済合理性からマネックスを選んだ。選定結果はマネックス側がインサイダー情報として管理しており、「発表後、すみやかにSBI証券に説明している」と指摘している。

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