特に発展途上国では、保健医療課題は新型コロナや次のパンデミックだけでなく、三大感染症を含めて多く存在する一方で、対策を行う地域の保健医療施設や従事者の数は限られている。検査・治療・ワクチンを拡大するためのサプライチェーンは未整備で、保健医療情報システムも脆弱な地域が多い。これらの現場の優先課題の解決と新たに発生する脅威への対処は包括的に検討・計画する必要があり、サプライチェーンや情報システムなどの保健システム強化への支援が重要である。
必要なのは「実践」できる人材
新型コロナは日本にも多大な打撃を与え、現在、医療も逼迫し、海外のことなど考えている場合ではない、という人もいるだろう。しかし、世界で新型コロナが収束しない限り、新たな変異株の発生などにより日本でも再流行する危険性はあり、将来の新たなパンデミックによる脅威を軽減するためにも、国際協調、そして外交は重要である。阿部氏も著書で強調している通り、感染症危機管理では、つねに世界の国際公益を見据えつつ、自国の国益のために尽くすこと、「眼(まなこ)は世界に、心は祖国に」といった姿勢をもつ必要がある。
日本はすでに、今回のパンデミックから多くの教訓を得ているが、将来の新たな感染症危機管理に向けて、特に人材の育成に力を入れるべきと感じている。
海外から見ていて、日本には評論家や自称専門家は多いが、実際に危機管理をリード・統括して人を動かせる人、特に指揮統制を動かせる人、大戦略、戦略レベルだけでなく、作戦、戦術レベルでオペレーションができる人は少ないように思う。また、リスクコミュニケーションなどを語れる人はいても、実際にそれを実践できる人、助言できる人も少ない。
阿部氏は本の中で、その必要な人材、それらに必要な素養なども説明しているが、現在進行中の危機は、それらの人材を育て磨く絶好の機会でもある。また、平時においても、世界のどこかで感染症危機は起こっているので、そのような現場に国際機関や専門機関を通じて人を派遣するなどして、実践で活用できる人材を積極的に育てる必要があると思う。阿部氏もそうやって学んだ知識・経験を基に、この大作を著し、後輩に伝えようとしている。この教範をぜひ多くの人に読んでもらい、日本のため、また世界のために役立ててもらいたいと切に願っている。
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