コロナ対策で本当に必要なのは「実践」できる人材 「戦術レベル」で実行できる人は意外に少ない訳

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本稿では、阿部氏の本で紹介されたいくつかのポイントをピックアップして、私なりの考察を加えてみたい。

「摩擦」がつきものの長期戦

まず「危機に向かう姿勢」として、No regrets policy(後悔のない対策)を紹介している。これは新たな脅威に対し、その影響を過小評価して最終的に大損害を受けて後悔しないよう、遅いよりは早すぎるくらい、足りないよりは多すぎるくらいの措置を行って損害を最小限に抑えるべきとの原則である。

また、「後医は名医」という格言を紹介している。患者を最初に診た医師(前医)よりも、後から診た医師(後医)の方が、前医の治療を受けた経過に関する情報や、病状の進行に伴い顕著になった症状に関する新情報など、獲得できる情報量が多いため、より正確な診断・治療ができる可能性があるというものである。

これらは新型コロナのパンデミックではどのように働いたのだろうか。

WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言したタイミングは遅く、「渡航制限は不必要」「マスクに感染予防効果はない」などの助言は適切でなかったとの批判がある。また、アメリカ・CDCも同様に流行初期にはマスクは不必要と伝え、当時のトランプ大統領も新型コロナの脅威を過小評価していたため、アメリカの対策は後手に回ったとの意見もある。これらは新たな病原体に関して限られた情報で判断したためではあるが、将来の新たな脅威に対するNo regrets policyについて再考する必要性があるだろう。

一方、流行初期に中国が実施した都市封鎖は「人権を無視した過剰な措置」との批判もありながら、これこそNo regrets policyだという人もいる。結果的には封じ込めに成功し、世界各地でこれを見習ったロックダウンが施行された。

未知なる敵を前にして、批評家は多くいても、すべてを知っている専門家はどこにもいなかった。インフルエンザなどのほかのウイルスからの推察はできても、このウイルスの本当の正体は調査研究を通じた新たなデータによって少しずつ明らかにするしかなかった。その意味ではまさに「後医は名医」であり、専門家が胸を張って主張していたことが、後に間違いとわかることもしばしばだった。

多くのエビデンスがわかってきても、それらを戦略、さらに作戦、戦術に実際に落とし込むことができない国もあった。特に、法制度によって厳格な措置ができない、厳格な措置をするも、補償を含む支援策がないため別の影響が及ぶ、厳格な措置をしたくとも、その人的・資金的・物的資源がない、などの問題を抱えていたのである。

次ページさまざまな「摩擦」が生じて措置が行えなくなった国も
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