「ハコヅメ」戸田恵梨香が最強の存在感を放つ理由 時代の要請としての「プロ性」と「普通性」

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また、その『スカーレット』では、肉体的にかなりハードな陶芸のシーンも、一切吹き替えなしで、全部が戸田恵梨香自身によるものだったそうだ。

女性陶芸家が少なく私の手に似た方が見つからないので『ご自身で作陶していただけますか』と言われた時には度肝を抜かれました(笑)。もちろん、吹き替えになるとは思ってなくて、稽古をして自分でやるとは決めていたので、やるんだろうなと思ってたんですけど、なにかフォローはあるかもしれないという淡い期待はあったのですが、そういうのも全然なくて(笑)、本当に全部自分でやってるんです(「Real Sound映画部」2019年9月30日)

さらに注目するべきは、このような俳優としての「プロフェッショナリズム」を持ちながら、それが100%になるのではなく、一個人=「人間・戸田恵梨香」も大切にしたいという「普通イズム」をも併せ持っていることである。

外出するときに変装するとか、芸能人なんだからセキュリティ万全のマンションに住むべきだ、とか。そもそも、芸能人なんだから、プライベートを多少犠牲にするのはしょうがないという考え方に賛成できません。私は普通の人間ですし、人間を演じる仕事をしているからこそ、普通でいたい気持ちがあります(「現代ビジネス」2021年7月7日)

 

私は芸能人ですが、普通の人間でありたいという気持ち、願いがすごく強い。芸能人だからといって、セキュリティ万全なマンションに住みたいとは思わない。普通のマンションで、普通に生活したい。とにかく普通でありたい(雑誌「with」2021年9月号)

戸田恵梨香の「実像」と「虚像」の一致ぶり

あらためて驚くのは、インタビューの発言の中に表出する「人間・戸田恵梨香」像と、画面の中の「俳優・戸田恵梨香」像が、かなり一致しているということだ。旬の俳優の場合、多かれ少なかれ、実像(人間)と虚像(俳優)は近寄っていくが、それにしても、ここまで一致しているのは珍しい。

要するに、「人間・戸田恵梨香」のような女性像、ひいては人間像が、時代から強く求められていることの反映なのだろう。これまでになくジェンダーの問題が多く語られた2021年という時代から。日本の「ジェンダー・ギャップ」が156カ国中120位という時代から(世界経済フォーラム『グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2021』)。

高い「プロフェッショナリズム」を持ちながら、俳優という仕事にすべてを捧げてしまうのではなく、地に足のついた「普通イズム」をも併せ持ち、他の誰でもない自分ならではのオーラを創りつつある「人間・戸田恵梨香」の像は、ドラマ『ハコヅメ』で戸田が演じる藤聖子とつながるし、またそれは、この時代に女性から求められる女性像、ひいては男性からも憧れられる人間像だと思う。

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