細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』を公開初日(7月16日)に見た。カンヌ国際映画祭のワールドプレミアで14分間にわたるスタンディングオベーションを受けたというエピソードを聞いており、期待は高まった。
しかし、多少の不安もあった。細田守による前作『未来のミライ』の興行収入は28.8億円で、前々作『バケモノの子』(58.5億円)の半分程度となったのだ。
ちなみに私は当時、「『未来のミライ』が切りひらく日本映画の未来」という記事を書いて、その「大冒険活劇」「ファンタジー」ではない路線を肯定したのだが、はたして、今作は、どのように評価されるのであろうか。
ディズニー映画的「新しい映像世界」
私の感想を一言で言えば、「映画館で見るべき理由のある映画」というものだ。
「映画館で見るべき理由」の1つ目は、映像のスケール感である。主人公の家の中の表現が多かった『未来のミライ』に対して、今作は冒頭から、圧倒的なスケール感で及第点を取りにくる。
具体的には、インターネット上の仮想空間=<U(ユー)>を描いた超精密な映像に一気に心奪われる。この<U>の映像表現については、プロダクションデザインを手がけた建築家=エリック・ウォンという人の貢献が大きいだろう。
また、その<U>の中でダイナミックに躍動する女性=ベルの映像も、実にヴィヴィッドですばらしい。
予告編の段階では、「制服を着て空を飛ぶ手脚の長い女の子」という、細田守的女性像とまるで異なる見てくれに、違和感を抱いたものだが、映画館の大画面で見たら、<U>の中にぴったりとハマっていたのだ。
この、ベルの独創的なキャラクターデザインについては、ディズニー映画『アナと雪の女王』にも参加したジン・キムという人の手柄となろう。
つまり、これまで築き上げた細田守的映像ワールドにとらわれない、新しい映像世界の導入が、圧倒的なスケール感を生み出しているのだ。そして、ここでいう「新しい映像世界」とは、突き詰めるとディズニー映画的、さらに具体的には『美女と野獣』的なそれである。
竜とベルが絡む映像や、そもそも「ベル」という名前から想起するのは『美女と野獣』であり、細田守自身も「僕は『美女と野獣』がすごく好きで、特に1991年のディズニー版が大好きなんです」とパンフレットで語っているので、一種のオマージュと言っていい。
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