「竜とそばかすの姫」が"ネット第一世代"に響く訳 1967年生まれの細田守が描く今後の「ネット像」

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『竜とそばかすの姫』は、『美女と野獣』へのオマージュと言える映像世界によって、『未来のミライ』に十分ではなかったかもしれないスケール感を、全力で奪いにきた作品だと、私は捉えたのだ。

また、「映画館で見るべき理由」の2つ目は、音楽である。主人公のすずとベルの声優を担当する中村佳穂の歌が、掛け値なくすばらしい。決してミュージカル映画ではないのだが、そう言ってもいいくらい、音楽の存在感が強烈な作品でもある。

King Gnuの常田大希が手がけたメインテーマ曲『U』などを、朗々と歌い切る中村佳穂の名は、この作品で一気に全国区になるはずだ。つまり、中村佳穂の歌が生み出す「映画館で聴くべき理由」である。

まとめると、スケール感あふれる映像と、中村佳穂によるすばらしい音楽が、自宅テレビやPCやスマホではなく、「映画館で見て・聴くべき理由」を醸成する。ちなみに私は、高品質映像とクリアサウンドが売りのIMAXデジタルシアター版で見たので、映像と音の印象がさらに強化されたかもしれない。可能であれば、IMAXでの鑑賞をおすすめしたい。

「ネット第一世代」特有の感覚

さて、肝心の内容についてだが、私はこの映画のテーマを「ネットとリアルの対立と融合」と捉えた。

ネタバレになるので詳述は避けるが、映画の中では、ネット社会<U>の中で、人(<As>とされる)が、リアルでは得られなかった自由を獲得するも、いつのまにか、ネットの炎上や同調圧力に追いやられ、リアルに回帰するという流れが描かれる。

しかし『竜とそばかすの姫』は、「ネットとリアルの対立」という、もう、語り尽くされ・描き尽くされた対立構図に話を収めずに、最終的には、リアルと「融合」することで、人々がもっと自分らしいあり方を獲得するという、楽観的なネット社会像に着地する印象を受けた。

これを裏打ちするのが、パンフレットに掲載された、細田守のインタビューにおける次の発言である。

「現実はひどくてネットは良い、ネットはひどくて現実は良いという二元論的なことになりがちですが、どちらにも良い悪いの両面がある。それがすでに日常そのものになっている時代の中、ネットにしろ、現実にしろ、子どもたちには目の前の世界をちゃんと肯定的にとらえてほしいな、と思うんです。(中略)『デジモン~』から『サマー~』と、ずっとネットを肯定的に描いてきた世界で唯一の監督だと自分で思っています(笑)。」

私は、この発言を見て、「ネット第一世代」特有の感覚だと思った。なぜならば、同じく「ネット第一世代」と言える、私自身の感覚にかなり近いからだ。

細田守は1967年生まれ、筆者は1966年。ひとくくりにすれば、われわれ世代は、社会に出て、90年代中盤から普及し始めたインターネットに、真っ先に飛びついた世代である。

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