『竜とそばかすの姫』は、『美女と野獣』へのオマージュと言える映像世界によって、『未来のミライ』に十分ではなかったかもしれないスケール感を、全力で奪いにきた作品だと、私は捉えたのだ。
また、「映画館で見るべき理由」の2つ目は、音楽である。主人公のすずとベルの声優を担当する中村佳穂の歌が、掛け値なくすばらしい。決してミュージカル映画ではないのだが、そう言ってもいいくらい、音楽の存在感が強烈な作品でもある。
King Gnuの常田大希が手がけたメインテーマ曲『U』などを、朗々と歌い切る中村佳穂の名は、この作品で一気に全国区になるはずだ。つまり、中村佳穂の歌が生み出す「映画館で聴くべき理由」である。
まとめると、スケール感あふれる映像と、中村佳穂によるすばらしい音楽が、自宅テレビやPCやスマホではなく、「映画館で見て・聴くべき理由」を醸成する。ちなみに私は、高品質映像とクリアサウンドが売りのIMAXデジタルシアター版で見たので、映像と音の印象がさらに強化されたかもしれない。可能であれば、IMAXでの鑑賞をおすすめしたい。
「ネット第一世代」特有の感覚
さて、肝心の内容についてだが、私はこの映画のテーマを「ネットとリアルの対立と融合」と捉えた。
ネタバレになるので詳述は避けるが、映画の中では、ネット社会<U>の中で、人(<As>とされる)が、リアルでは得られなかった自由を獲得するも、いつのまにか、ネットの炎上や同調圧力に追いやられ、リアルに回帰するという流れが描かれる。
しかし『竜とそばかすの姫』は、「ネットとリアルの対立」という、もう、語り尽くされ・描き尽くされた対立構図に話を収めずに、最終的には、リアルと「融合」することで、人々がもっと自分らしいあり方を獲得するという、楽観的なネット社会像に着地する印象を受けた。
これを裏打ちするのが、パンフレットに掲載された、細田守のインタビューにおける次の発言である。
私は、この発言を見て、「ネット第一世代」特有の感覚だと思った。なぜならば、同じく「ネット第一世代」と言える、私自身の感覚にかなり近いからだ。
細田守は1967年生まれ、筆者は1966年。ひとくくりにすれば、われわれ世代は、社会に出て、90年代中盤から普及し始めたインターネットに、真っ先に飛びついた世代である。
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