「ハコヅメ」戸田恵梨香が最強の存在感を放つ理由 時代の要請としての「プロ性」と「普通性」

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テレビ好きのシニア(54歳)として、この夏のテレビ界は、少々息苦しく感じた。感染状況がどんどん悪化していく中、まったく光の見えないコロナ関連報道と、まるでコロナ禍などなかったように「金メダルラッシュ」をハイテンションで騒ぎ立てる五輪報道との間に埋もれ続けた夏。

そんな中、ウェルメイドな作品が量産されるドラマ界だけには救いを感じた。とりわけ、実像と虚像を一致させながら、細い身体に大きなオーラを背負って力走する警官姿の戸田恵梨香は、少々大げさに言えば、「安全・安心」ならぬ「危険・不安」な夏を生き抜くために不可欠な存在となったのだ。

コメディエンヌとしての才能

と「俳優・戸田恵梨香」を推しに推しながら、これからは、「コメディエンヌ・戸田恵梨香」を、もっと見てみたいと思う。時代の要請を真正面から受け入れる「俳優・戸田恵梨香」とは別に、時代の要請などとは無関係に、ただ単純に、飛んで跳ねてしゃべりまくる「コメディエンヌ・戸田恵梨香」も見てみたいと思うのだ。

『スカーレット』における伝説の(?)バックドロップのシーンや、今回の『ハコヅメ』の第4話で、男性刑事ばかりがたむろする部屋のニオイがたまらず、息を止めた「ヘリウムガスのような声」を出すシーンには爆笑した。関西人(神戸市灘区出身)ということもあるのだろう、コメディエンヌとしての天賦の才に着目するのである。

そのヘリウムガスのシーンを見て、私が直感的に思ったのは「80年代のキレッキレの明石家さんまと共演させたかった」ということだ。『男女7人夏物語』(1986年)における、さんまと大竹しのぶの、あの、どこまでが台本でどこまでがアドリブなのかがわからないやりとりを、戸田恵梨香なら軽くこなせるのではないか。

あの頃の明石家さんまに、大竹しのぶ役を戸田恵梨香、その他を賀来賢人、林遣都、松岡茉優、高畑充希、川栄李奈……というコメディー資質の高い面々で固めた「男女7人令和の夏物語」が見てみたいと妄想した。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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