9人目の孝之は、9つ上の男性だった。それまでは同世代との見合いが多かったのだが、あえて年の離れた男性からの申し込みも受けてみた。
「最初は、“9つも上の人ってどうなんだろう“って。でも、お見合いのときから私の言うことを決して否定しなかったし、すごくよく話を聞いてくれたんです。そして、交際に入ってデートを重ねていくうちに、“この人とは、イコールの関係が築けるな“って思ったんですよ。独りよがりに事を進めようとしないし、私が何を言っても語気を荒げたり、怒ったりしない。結婚するならこういう人がいいなと、お会いしていくたびに、彼を好きになる気持ちが育っていきました」
地方に転勤する可能性について話したら…
孝之には、幸せな家庭を築きながらも自分のキャリアを磨いていきたいことを正直に話した。そして、地方支社に役職付きで転勤できたら、それがキャリアアップにつながることも告げた。
すると、孝之は言った。
「もし転勤できるなら、それもチャンスだし、行ってきたらいいんじゃない? 2、3年なら別居婚でもいいよ。帰ってきても奈津美ちゃんはまだ20代だし、それから子どもを作っても遅くないでしょ。僕はオジサンになっていくので体力的に心配な部分もあるけれど、まあ、まだ30代だし、離れていても僕の気持ちは変わらないよ」
孝之のこの言葉に、奈津美の中で迷っていた気持ちが、「会社からチャンスを与えてもらえるなら、転勤してキャリアを積もう」という方向に大きく振り切れた。
そして、5月には正式に結婚を決めて、5月の末日に成婚退会をしていった。結婚の報告に来た奈津美が言った。
「実は、孝之さんが親御さんに、『最初の数年は、別居婚になるかもしれない』という話をしたら、『若い子だから、結婚を本気で考えていないんじゃないの?』と危惧されたようなんです。でも、孝之さんは、『今の時代、女性もチャンスがあるならキャリアを積んだほうがいいし、離れていても2人の気持ちは変わらないから』と言ってくれたみたいで。もしかしたら親御さんはもっとほかにも言ってるかもしれないけど、彼が止めているのか、私にはそれ以上のことは、何も伝わってきていません」
そして、しみじみと続けた。
「結婚する相手が孝之さんだったから、こんな選択ができた。仕事も頑張りたい。でも、それを優先させたら結婚ができないんじゃないか――。そんなふうに悩んでいた私の背中を、彼が押してくれた。会社にも正式に、転勤要請を出しました。もちろん選んで貰えるかどうかはわからないけれど、それが通ったら精一杯地方の支社で頑張ってこようと思っています」
結婚をしたら、女性は仕事をそこそこに、家事全般と育児のほとんどを担う。男性は、一家の大黒柱となり家庭経済の主軸となって、家事や育児をサポートをする。そんな時代は、終わろうとしている。
ただ子どもを10カ月間お腹の中に宿し、出産をするのは女性にしかできないことだし、小学校に上がるくらいまでの子育ては、やはり母親が関わる部分が大きくなる。“育メン“という言葉も生まれ、男性が育休を取れる会社も増えているが、実際は取りづらい社風の会社が多いと聞く。そんな風潮の中で、キャリアを積みたいと思っている女性は、どうしても若くしての結婚、出産に二の足を踏んでしまうのかもしれない。
しかし、時代は少しずつ変わってきている。
奈津美の婚活と結婚に、今の時代の働く女性の姿を見た気がした。また、それを理解して背中を後押しした孝之にも、今の時代の男性像がうかがえた。
おめでとうございます! 新しい時代を築いていく2人の生き方を、ファミリーのあり方ををこれからも見せてくれることだろう。
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