本作の根幹にかかわる過去に館で起きた事件の多くは、家族内の不和、裏切りや愛憎に起因している。
夫とメイドの浮気現場に遭遇した妻が何をしたのか。あるいは、隣家の女性に夢中になった館の主が、家族に何をしたのか。この過去の事件が、ベンとヴィヴィアンの一家に重なっていく。
登場人物たちの中には、この世の者ではない実体を持つ霊たちが存在している。誰がそうであるかは順次、明かされていくのだが、ここが本作の面白いところで、視聴者が「すでに死んでいるキャラクターがいる」とわかったうえで見ていても、うっかりだまされてしまうトリッキーな仕掛けが毎回なされているのだ。
ホラーやこの手のオカルト、スリラーを見慣れた人ほど、あるいは深読み系ほど引っかかってしまうかもしれない。これは『シックス・センス』か、はたまた……!? などと展開や謎に考えをめぐらせると、その先を読むかのように番組は予想を裏切ってくるのだから。この演出の妙、巧みな脚本は、ホラーというジャンルでありながら、本作がTV界のアカデミー賞と言われるエミー賞でも非常に高く評価されている理由のひとつである。
悲惨な体験を持つ霊が一家を崩壊させていく
ベンとヴィヴィアンの家族の話に戻そう。誰が霊なのか、霊の過去の悲惨な体験が明かされて行くのと並行して、確実に邪悪な存在が、この一家を崩壊へと向かわせていく。だが、別の見方をすれば、この家族の不和が邪悪な存在を引き寄せている、つけ込むすきを与えているようにも見える。
いくら詫びたとしても、浮気相手ヘイデンの存在がヴィヴィアンの脳裏から消えることはない。そればかりか、ヘイデンはボストンからベンに会いに来てしまうのだ。ここでもまた、ええっと驚きの展開が用意されているのだが、疑念はさらなる疑念を呼び、家族の溝はどんどん深くなっていく。
はたして、一家は館の呪いを振り切って、家族の絆を取り戻すことができるのだろうか? そして、それぞれに悲しい過去を背負う登場人物たち(霊も含む)もまた、呪縛から解放されることができるのだろうか?
本作は、映画『シャイニング』やドラマ『キングダム』『シックス・センス』やスティーヴン・キングの世界などを彷彿とさせるシーンもあるが、全体としてはまったく新しい感覚のスタイリッシュで官能的なホラーである。が、ドラマの帰着点は、常識とか想像をはるかに超えて、ただもうブッ飛んでいる。
この結末は、”失って初めて気づく、当たり前の幸せの大切さ”を、極端な形で表したものと解釈することができるだろう。
そもそもどこか傲慢なベンは、過ちの後、引き返すことのできた最後のチャンスはどの時点だったのだろうか? ヴィヴィアンは、どの時点で夫を許すべき、または見限るべきだったのだろうか……? まさに、“後悔先に立たず”である。
基本的に保守大国アメリカにおいては、どのようなジャンルにおいても「家族がいちばん」といった通念は根強い。わかりやすいのは、地球滅亡が近いといったパニックムービーで、これは“何が大切なのか”に気づくための究極の設定でもあるだろう。ホラーも同じで、たとえば古くは『ポルターガイスト』(1982年)など、わが子のためなら強大な霊にも勝る母の愛が強く印象に残る。
もっとも、現代の家族像は多種多様、複雑で、本作のように絆の再確認の仕方も、そうそうストレートにはいかないのかもしれない。もちろん、こんな形は避けたいところだが……。
『アメリカン・ホラー・ストーリー』は、2011年からケーブル局のFXで放送スタート。クリエーターは、『Nip/Tuckマイアミ整形外科医』(FX)や『glee/グリー』(FOX)、そして本作のヒットで飛ぶ鳥を落とす勢いのライアン・マーフィーである。
シーズン1は12話で完結。本国ではシーズン4の放送が予定されている。毎シーズン独自の世界観を作り上げ、よくも悪くも突っ走ってやり切る作風には圧倒されるばかり。これほどまでのクリエーティビティの自由を与えている、放送局FXの批判を恐れないチャレンジングな姿勢には頭が下がる。こうでなければ、TVシリーズではまれなホラーというジャンルで成功を収める画期的な作品は生まれなかっただろし、マーフィーのような優秀な人材を発掘し、確保することもまた難しいだろう。
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