今回もビッグネームにご登場願おう。日本を代表する小説家である井上靖(1907-91)である。
井上靖は京都大学を卒業後、『サンデー毎日』の懸賞小説に入選し、その縁で毎日新聞社に入社。途中兵役を挟み15年近く毎日新聞に勤務した後、1950年の『闘牛』で芥川賞を受賞し、その翌年に退職し、作家専業になった。
それ以後は現代物、歴史物を中心に幅広いジャンルで多くの作品を著し、ノーベル文学賞の有力候補ともいわれた。ダジャレ好きの筆者としては、酒豪だった井上がノーベル賞受賞を逃した夜、「今日は無礼講で「ノーメル賞だ」と知人らにふるまった」というエピソードに深い愛着を覚えている。
『氷壁』(1957年)、『天平の甍』(1957年)、『敦煌』(1959年)、『おろしや国酔夢譚』(1968年)をはじめ、今でも多くの読者を魅了し、映画化、テレビドラマ化された作品も多い。
さてこれまで『稀珍快著探訪』では、大家が描いたUFO、キングコング、エスパー、ツチノコ、つまり大家が取り上げた、ちょっとおかしなテーマにスポットライトを当ててきた。今回は雪男。内容もまた、なんともケッタイなのだ。題して『群舞』(角川文庫)という。
まずは、あらすじをざっと見ておこう。
人妻かわいさのあまり・・・・
主役はカメラマンの田之村克也。田之村は、人妻である、方良りつ子への一方的な思慕の念を断ち切るべく、半年間、インドやネパールを放浪する。ところが帰国してみると、出所不明ながら 「田之村というカメラマンが雪男を撮影した」という噂で日本中が沸きかえっていた。
まったく身に覚えのない田之村は当初、懸命にその噂を否定しようとしていた。しかし、せっかく放浪したのにさっぱり思い切ることが出来なかったりつ子が、田之村の雪男撮影を信じていると知った途端、田之村はりつ子かわいさのあまり前言をひるがえし、撮ってもいない雪男を撮ったと言ってしまう。
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