一銭もカネのかからぬ、それでいて、日本の文化史を飾る、いと雅なる趣味をご存じだろうか。それは「屁の道」である。
最近でも、屁で闘う人々の姿を活き活きと描いた日本の絵巻物(早稲田大学図書館架蔵)がイギリスのタブロイド紙で紹介され、全世界の人々を驚倒させた(「屁 合戦 絵巻」のキーワードでgoogle検索すると、それ関連のニュースがワンサカ出てきます)。
日本は古来より、屁の道への愛着や研究が盛んになされたお国柄である。そのあたりは日本屁文献の不朽の名著、福富織部『屁』や宝暦年間に世に現れた『薫響集』などに詳しいし、近代日本が誇る不世出の大奇人・平賀源内の『放屁論』などにも愉快に綴られている。
屁道の名人
ここで紹介するのは、それほど古い文献ではないものの、屁文献としては恐らくほとんど知られていない、横山浩二著『俺が怪物だ 異色26人の”根性”』 (文潮社、文潮ライフ・ブックス、昭和40年) の一章「おならでモノした一等社員! 音色・大小の調整思いのままの屁道名人」である。
『俺が怪物だ』は、副題の通り、「なんでも食べないと生きていけぬ資産三億の男」や「性毛ニランで三十五年 毛相学創始・毛相学博士草丘学会会長」など、全く異色の特異な強みを持つ実在の豪傑達のインタビューから構成された非常に馬鹿馬鹿しくて面白い本だ。
登場する奇人変人たちのインパクトはいずれも強烈だが、中でも抜きん出て面白いのが、このオナラ名人の話なのだ。本当は下手な解説を加えるよりも、この「おならでモノした一等社員!」をまるまる全引用した方がはるかに面白いと思うのだが、ここでは抜粋の上、解説を加えたい。
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