スターリンを批判して処刑された幻の作家 ピリニャークが『消されない月の話』に書いたこと

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『消されない月の話』(米川正夫訳)のゆまに書房による復刻版。戦前のオリジナルは幻の書物だが、この復刻版も今や入手困難

今回、取り上げるのは、幻の作家ともいえるボリース・ピリニャーク(1894-1938)。ヨシフ・スターリン独裁が進むソ連において、痛烈にスターリンを批判してみせた作家である。

独裁者による恐怖政治は、今でも世界中にある。たとえば金王朝3代目の正恩が絶対的な権力を握る北朝鮮。昨年12月にナンバー2の実力者が、実に恐ろしい方法で粛清された事件は、世界中に衝撃を与えた。

国内で2番目の権力を持った男でさえもあのような死に方をするのだから、一般市民の命など本当に軽いものだ。

そして、おそらく歴史上、もっとも過酷な恐怖の中に市民が暮らしていたのがスターリン時代のソ連であった。

1930年代だけで700万人が処刑

当時は「スターリン批判」などとんでもない話。実際に批判をしなくても、ほんのわずかでも批判的考えを持っているという疑いをかけられただけで、もう生きて帰られる保証のない収容所へ送られるか、銃殺されてしまうのである。

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戦後唯一の長編翻訳である『機械と狼』

一説ではスターリン時代に粛清された人の数は、1930年代だけで700万人とも言われている。あまりにも膨大な人数であり、想像をするのも難しい。

数年前、うっかり酒場でスターリンの悪口を言ってしまったため銃殺を恐れて森に逃げ込み、そのままそこで半世紀以上も暮らした男が保護された、という信じられないニュースが報じられた。当時の日常生活に張り巡らされた恐怖を思えば、この男のとった行動は常軌を逸したものとは言い切れないだろう。

北朝鮮において、目立った形では正恩批判が起こらないのも、国の隅々まで恐怖政治が浸透しているからだ。

そんな絶対的な恐怖政治の頂点に君臨し、誰も盾つくことが許されぬスターリンに対し、正面切って喧嘩を売った作家がいた。それが今回の主人公、ピリニャークだ。

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