戦後秘話、タンスが殺人した大阪の驚愕事件 トンデモ本『怪人ジキル』には、元ネタがあった!

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怪人ジキルの表紙絵

これまで紹介してきた書籍たちは、一般には殆ど知られていないものの、「その道」では有名な作品ばかりであった。しかし、今回紹介する『怪人ジキル』は筆者の知る限りでは、書籍・ネットで取り上げられたことは皆無(のハズ)。全く無名の作品であり、正に『稀珍』の看板にかなう作品である。

 この本は忘れもしない、筆者が中学か高校の頃、中高生でも買える範囲で珍しい探偵小説をコツコツと集めていた時期に、何気なく購入した本の一冊。昭和23年刊だけあって、粗悪な仙花紙(「くず紙を漉き返して作った粗悪な洋紙。第二次大戦後の物資欠乏の時代に作られた。」 goo辞書より)を用いて戦後まもなく大量に粗製濫造されたいわゆる「仙花紙本」の一つである。

表紙絵は、屋上で身をよじらせる女性を地上から心配そうにみている2人のアップとなっているが、手前の人物の手が右なのか左なのかよく分からないという恐るべきデッサン力からして、早くも珍書臭が漂っていてグッド。本文中にも3、4ページに1葉のペースで、表紙絵同様なんとも稚拙で素朴な挿絵に彩られている。

 ただ、そんなことより何よりも、問題はその中身。今でも純朴だが当時はもっと純朴だった筆者はこの本のお蔭で、ハムレットが発した「天と地の間にはな、ホレイショー、人智など夢にも及ばぬくだらない本がいくらでもあるのだ」という名言の真の意味を悟る事ができた。その意味で『怪人ジキル』は、古書蒐集道のスタートラインに立ったばかりの筆者を、いきなり「珍書道」に目覚めさせてくれた(=人生転落のきっかけとなった)、記念碑的一冊ともいえる本なのである。

文学調の滑り出し

四月━━もう桜も咲き揃ったというのに、この日の晩は、妙にうす寒く街のプラタナスにつき始めた青葉をゆさぶる風も春のなごやかさがなかった。なにか師走の風を忍ばせるするどいものがあった。

冒頭だけは意外に文学調のスタートながら、そのあといきなりO市(出版元が大阪なので明らかに大阪を想定)で発生する恐怖の連続強盗殺人が語り出される。これは帰宅途中の商人が何故か裸にされて毎日一人ずつ、累計五十数人が次々に惨殺されるという、切り裂きジャックを遙かに上回るスケールの事件。この本、一応少年ミステリなんですけど、冒頭3ページでいきなりそんなに人を殺しちゃっていいんですか?

いずれの事件も被害者の肩には「G」の血文字が!さらに調子に乗った犯人は、「ジキル GIKIL」と名乗って警察に挑戦状を送りつけてくる。その後、犯行予告→名探偵・米田記者の登場→ピエロに化けたジキルのアドバルーンでの逃走→米田探偵と犯人ジキルの因縁(米田探偵の幼馴染が、本名が治木留次《はるきとめじ》だったことからジキル《治木留》と名乗っていた)→少年探偵(米田探偵の弟)の誘拐と脱出劇・・・・という具合に畳み掛け、江戸川乱歩の通俗長編や横溝正史の少年ものといった「一昔前のスリラー」っぽいギミックが次々に登場する、「いかにも」な展開が全体の8割までは続く。

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