「不倫」と「芸術」との深遠な関係 井上靖の「雪男」に埋め込まれた、不倫愛の清算

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しかしその夜、そんな自分に嫌気がさして、深酒で酩酊していた田之村をS新聞の猪俣記者が見つけ、雪男と遭遇した(実際はその場で田之村がひねり出した架空の)顛末を強引に聞き出し、独占記事としてスクープ報道する。猪俣自身は冷徹で打算的な現実主義者ゆえ、田之村の話など全く信用していなかったのだが、田之村の手記を補強すべく取材した雪男肯定派学者の女性助手に一目ぼれしてしまう。その結果、彼もまた本当は雪男を信じていないのに、S新聞の論調を雪男肯定に持っていくべく強引に走り出す。

一方、大手Rフィルム社の榎倉会長は熱烈な雪男ファン。広報部長の大屋に対し、何としても田之村から雪男が写っているフィルムを譲ってもらうように厳命する。クビがかかった大屋は必死に田之村に頼み込み、根負けした田之村は、(雪男が写っているフィルムなど実際存在しないので)既に露光して何も写っていないフィルムを「慌てていたので恐らく何も写っていないだろうが、雪男が写っているとすればこのフィルムだ」と説明して手渡す。

ほっとした大屋は、よせばいいのに会社に戻る前にビアホールでビールを浴びるように飲み、酔って目を離した隙に、ビアホールで遊んでいた子供に肝心のフィルムを露光されてしまう。

もともと何も写っていなかったフィルムとは知らない大屋は、ようやく入手した雪男フィルムがダメになってしまったと真っ青になる。追い詰められた大屋は、会社に出入りする美大生の黒川にそそのかされ、深夜の動物園に忍び込んでシロクマを撮影。そのぼんやりした写真を「田之村が写した雪男の写真」として榎倉会長に渡す。

それを見て益々ヒートアップしてしまった榎倉会長が、S新聞に働きかけ、S新聞が主催する雪男探検隊のパトロンとなることを申し出る。そして遂に雪男探検隊が結成されるのだった。

 1つのウソから広がる騒動

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山本健吉による群舞の書評

たった一つの小さなウソ。それが次第に大きくなって渦巻きとなり、その中に人々が巻き込まれ、振り回されく様は『群舞』というタイトルにふさわしい。

雪男という世界的に有名なUMA(未確認動物)を日本人が発見したとすれば、確かにこんな感じで騒動が広がっていくのだろう。その有様を、シニカルにユーモラスに描いている。

終盤になって、方良りつ子は田之村に「雪男の足跡が驚くほど真っ直ぐなのは、雪男が何らかの事情で離れ離れになっている雪女に会いに行く時の一途な気持ちの故だ」と語り、それを聞いた田之村は、りつ子が自分の気持ちに気付いていることを悟る。しかしラストで田之村はりつ子への思いを必死に断ち切り、ひとり歩み出そうとする。

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