「若草物語」次女ジョーの苦闘に描かれた深い意味 150年前「男の子になりたい」と願った少女の人生
ルイザ・メイ・オルコット『若草物語』。昨年公開の映画「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」はアカデミー賞6部門にノミネートされるなど大きな話題となり、再び注目が集まりました。
「小さな婦人たち(Little Women)」が原題である本作は、マーチ家の長女のメグ、次女のジョー、3女ベス、4女エイミーの4姉妹の物語。1868年の出版から150年もの間、世界中で高い人気を誇る不朽の名作です。
内容は一見ありふれた家族のよしなしごとを描写した典型的な家庭小説に見えますが、実は「女子は家庭におさまるべし」という、ジェンダーにまつわる固定観念に一石を投じる先駆的な小説なのです。とりわけ、マーチ家の次女ジョーが当時の価値観、規範に絡め取られまいと闘う様を見ていきます。
懐かしい名作少女小説を現代の視点からあらためて読み直す『挑発する少女小説』より一部抜粋、再構成してお届けします。
※作品からの引用は『若草物語』(吉田勝江訳、角川文庫、1986年)より
主人公は「男の子になりたかった」女の子
舞台は、南北戦争(1861~1865年)の頃のアメリカ東海岸。作者が少女時代をすごしたマサチューセッツ州のコンコードと推測されます。
〈私おとなになったなんて考えるだけでぞっとするわ。そしてミス・マーチなんてものになって長いドレスを着て、エゾ菊みたいにつんとすましてるなんてさ。とにかく女の子だっていうのがいけないのよ。私は遊びだって仕事だって態度だって、男の子のようにやりたいのに。男の子でなかったのがくやしくってたまらないわ〉
型破り、ボーイッシュ、中性的、いろいろ表現はありましょう。しかしともあれ、ジョー・マーチがこのように言い放った瞬間に、少女小説の運命は決まったといえます。ジョゼフィンを略したジョーという呼び名自体、男性の名前です。少女小説の歴史は皮肉にも、家庭小説の流儀を蹴飛ばす少女からはじまったのでした。
背が高く、やせて色が浅黒く、長い手足をもてあましているという少年のようなジョー。彼女は職業作家志望です。
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