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「若草物語」次女ジョーの苦闘に描かれた深い意味 150年前「男の子になりたい」と願った少女の人生

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〈髪は短くなったようだが、1年前に別れた『息子のジョー』の面影はなくなったね〉。これがジョーに対する父の第一声でした。

〈あのわんぱく娘はいなくなったようで寂しいが、そのかわりにしっかりした、たのもしい、やさしい婦人がいてくれるのだから安心だ〉

行儀がよくなった娘の成長を喜ぶ父。ま、牧師さんの商売は説教ですから致し方ありませんが、こうやって女の子はスポイルされ、少女時代の快活さを失っていくのだと思わずにはいられません。やはり少女小説にとって父親は邪魔者なのです。

表のメッセージと裏のメッセージ

「小さな婦人たち(Little Women)」というタイトルも、そもそもはマーチ氏が娘たちにかくあれかしと願って掲げた言葉に由来します。父のこの言葉と母の先の言葉を統合すれば、『若草物語』が発している表のメッセージは明らかでしょう。

娘たちよ、自らの欠点を克服して「小婦人」としての成長をとげよ。さすれば君たちはやがてよき伴侶を得て、幸福な人生を手に入れるであろう。

『若草物語』は表向きはそういうお話です。マーチ夫妻の価値観はこの時代の市民の価値観。だから家庭小説らしい家庭小説として、この本は市民社会に受け入れられた。

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しかしそれはあくまで「表向き」のメッセージです。もしも読者がこのメッセージを額面どおりに受け取っていたら、『若草物語』は世界中の少女をかくも長く魅了はしなかったでしょう。ここには裏のメッセージが隠されている。それは……。

娘たちよ、臆せず男の子のように生きよ。君たちの前に立ちはだかる壁は高く、周りは敵ばかりだが、ひるまずに前を向け。君にはジョーがついている。

こんなこと、『若草物語』のどこにも書いてはありません。物語後半のジョーは挫折続きで、後悔や反省ばかりしています。しかし、男の子のように生きたいと思った女の子は必ず困難にぶつかる。時には最愛の家族が敵として彼女の行く道をふさぐ。それは150年前はもちろん、現代でも基本的には変わりません。だからこそ『若草物語』はジョーに試練を与えたのです。

それは楽な道ではないよ、でもがんばれ、と。

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