「若草物語」次女ジョーの苦闘に描かれた深い意味

150年前「男の子になりたい」と願った少女の人生

中産階級が台頭した19世紀のアメリカは、産業革命を背景に「男は仕事/女は家庭」という性別役割分業社会が成立した時代でした。男の子の最終目標が職業人としての成功なら、女の子の到達地点は幸せな結婚と家庭生活である、という価値観はこの時代に固まったといえます。

マーチ夫人の家族観にもそれはあらわれています。〈私はね、自分の子供たちが美しく、なんでもよくできる善良な人になって、人からほめられ、かわいがられ、尊敬されるようになってほしいのです〉。そして〈りっぱな男の人に愛され、妻として選ばれるということは、女としていちばんしあわせなうれしいことなのです〉。

誰にも理解されないジョーの孤独

この程度のことはどんな親でもいうし、不幸せな結婚より老嬢のほうがマシだというジョーの意見に同調もしているマーチ夫人は、特に保守的だともいえないでしょう。しかし、男だったらこんな思いはせずにすんだ、とジョーは考える。ジョーはローリーの家庭教師・ブルックさんを一貫して「あの男」呼ばわりし、彼と姉のメグの結婚を最後まで祝福しません。

その往生際の悪さはいっそ滑稽なほどですが、異性愛が絶対善だと信じている家族にも親友にも、彼女の孤独はおそらく理解できないでしょう。

ここまで男になりたがり、異性愛を敵視する以上、本当は彼女のセクシュアリティー(性自認・性的指向性)を疑う必要があるのかもしれません。しかし、セクシュアリティーがどうであれ、男の子のように生きたいと望んだ少女の前には必ず壁が立ちはだかる。メグの結婚話でジョーはその現実に直面したのです。彼女が受けた衝撃は、女子のジェンダー規範に合致したメグやエイミーはもちろん、家族の幸せが自分の幸せと考えるベスの理解も超えていたはずです。だからこそ、ジョーの孤独と絶望は深いのです。

物語のラストは最初のシーンから1年後。物語から追い出されていたマーチ氏がサプライズ帰還して、一家が喜びにわくという感動の場面がそこには用意されているのですが、はたして帰ってきた父はなんといったか。

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