「若草物語」次女ジョーの苦闘に描かれた深い意味

150年前「男の子になりたい」と願った少女の人生

男の子なのに少女小説への出入りを許されたローリーとは、ではどんな少年か。

彼の正しい名前はシオドア・ローレンス。彼はマーチ夫人が「少年紳士」と呼ぶほど礼儀正しい少年ですが、大学に行かせられるのを嫌がっています。〈大きらいです。こつこつ詰め込むか、ばか騒ぎするしかないんですからね。それに僕はこの国の若い連中のやることも好きじゃないんです〉と彼はいいます。

ローリーの夢は世界中を自由に旅した後でドイツに渡ることだった。好きな音楽をやりたい、僕は有名な音楽家になる、とローリーはいいます。彼の亡き母はイタリア人の音楽家です。ヨーロッパへの憧れも音楽への憧憬も高かったのかもしれません。

男の子らしさを嫌う男の子、ローリー

しかしローリーにもローリーの悩みがあった。

〈おじいさまは、僕をご自分のようなインド貿易商にしたいんだ。ところが僕はそんなものになるくらいなら、弾に撃たれて死んだほうがいい〉

男として敷かれたレールの上に乗ることをローリーも嫌っている。

男の子のような振る舞いを好むジョーと、男社会のバカ騒ぎが嫌いで内気なところのあるローリー。それぞれに「女らしさ」「男らしさ」というジェンダー規範に乗れない似た者同士だからこそ、2人は意気投合した。ローリーが女ばかりのマーチ家になじめたのも男の子らしくない男の子だったからでしょう。

少女小説の特徴のひとつは、恋愛を描かないことです。主人公の多くが子どもであること、19世紀の保守的な価値観、性的な匂いを嫌うピューリタニズムの影響など、理由はいろいろ考えられますが、ともあれ恋愛をメインのストーリーにはしない。恋愛よりも友情が上。それが少女小説のオキテです。

ジョーとローリーの間にあるのも異性愛というよりは友情です。2人の関係は親友としか呼びようがありません。「いつかこの2人はくっつくんじゃないかしら」「くっついてほしい」と考える読者が少なからずいることは私も知っています。知っていますが、〈小説以外のロマンスなどはむしろ軽蔑している〉というジョーの言い分に従って、そんなのはくだらないラブロマンスに毒されている証拠だと一蹴しておきます。

とはいえジョーのような子は、この時代においては異端児です。快活だったジョーはやがてそのことで苦しみ、いくつもの試練を味わうことになるのです。

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