「性的指向を変えたい」29歳男性が見た深い断絶

職場の男性に誘われると「緊張」してしまう

性的指向と恋愛的指向が一致しないという苦悩を訴えるケンイチさん。「私のような人間もいるということを、まずは知ってほしい」と語る(筆者撮影)
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。
今回紹介するのは「セクシャルマイノリティー(同性愛寄りの両性愛者)で悩んでおります。発達障害とうつ病でもあるトリプルマイノリティーです」と編集部にメールをくれた、29歳の男性だ。

棚の上に50種類以上の薬剤の箱や瓶が並ぶ。抗うつ剤や抗不安剤、興奮や緊張を抑えるための薬剤――。脳の機能を高めるとされる、いわゆるスマートドラッグもある。ケンイチさん(仮名、29歳)は「ほとんどが個人輸入したものです。関連書籍も含めると今までに100万円は使いました」と言う。

いろいろな薬剤を試す目的はただひとつ。ケンイチさんは自らの性的指向を変えたいのだという。

2つの指向が一致しないセクシャリティー

ケンイチさんはセクシャルマイノリティーである。ただ、LGBTのどれにも当てはまらない。強いていうならばLGBTQのQが近いという。Qとはクエスチョニング。性的指向や性自認を決めたくない人や、どのセクシャリティーもピンとこない人などのことを指す。

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どういうことなのか――。ケンイチさんによると、自分にとってかわいいな、付き合いたいなと思う対象は女性だ。好みの女性と親しくなれればうれしいし、ドキドキもする。しかし、性的に興奮しない。一方で男性から話しかけられたり、触れられたりすると性的にひかれるのだという。

いまひとつピンと来ていない様子の私を見て、ケンイチさんが説明を続ける。

「私の性自認は男性です。一方で生々しい話で申し訳ないのですが――。(男性向けの)風俗を利用したとき、満足感はあったのですが、セックスは薬(勃起障害治療薬)がなければできませんでした。一方でゲイの男性からスキンシップをされると、異性愛者の男性が覚えるであろう違和感もあるのですが、同時に性的な魅力も感じます」

少し専門的な言葉になるが、ケンイチさんのセクシャリティーは「恋愛的(ロマンティック)な指向」は女性に、「性的(セクシャル)な指向」は男性に、それぞれ向いている状態にある、と説明することができる。このように2つの指向が一致しないセクシャリティーを持つ人は一定数、存在するともいわれる。

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