棚の上に50種類以上の薬剤の箱や瓶が並ぶ。抗うつ剤や抗不安剤、興奮や緊張を抑えるための薬剤――。脳の機能を高めるとされる、いわゆるスマートドラッグもある。ケンイチさん(仮名、29歳)は「ほとんどが個人輸入したものです。関連書籍も含めると今までに100万円は使いました」と言う。
いろいろな薬剤を試す目的はただひとつ。ケンイチさんは自らの性的指向を変えたいのだという。
2つの指向が一致しないセクシャリティー
ケンイチさんはセクシャルマイノリティーである。ただ、LGBTのどれにも当てはまらない。強いていうならばLGBTQのQが近いという。Qとはクエスチョニング。性的指向や性自認を決めたくない人や、どのセクシャリティーもピンとこない人などのことを指す。
どういうことなのか――。ケンイチさんによると、自分にとってかわいいな、付き合いたいなと思う対象は女性だ。好みの女性と親しくなれればうれしいし、ドキドキもする。しかし、性的に興奮しない。一方で男性から話しかけられたり、触れられたりすると性的にひかれるのだという。
いまひとつピンと来ていない様子の私を見て、ケンイチさんが説明を続ける。
「私の性自認は男性です。一方で生々しい話で申し訳ないのですが――。(男性向けの)風俗を利用したとき、満足感はあったのですが、セックスは薬(勃起障害治療薬)がなければできませんでした。一方でゲイの男性からスキンシップをされると、異性愛者の男性が覚えるであろう違和感もあるのですが、同時に性的な魅力も感じます」
少し専門的な言葉になるが、ケンイチさんのセクシャリティーは「恋愛的(ロマンティック)な指向」は女性に、「性的(セクシャル)な指向」は男性に、それぞれ向いている状態にある、と説明することができる。このように2つの指向が一致しないセクシャリティーを持つ人は一定数、存在するともいわれる。
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