ただ、マイノリティー中のマイノリティーであることに違いはなく、ケンイチさんに言わせると「好きになって、両想いになって、触れ合いたいと思って、セックスに至るという、当たり前の一連の反応が自分の脳内では起きない」。このため、異性愛者やLGBTの人たちのように「一連の流れに乗って」パートナーと関係を築くことができないというのだ。
「だから、性的指向を変えることで異性愛にそろえたいんです。脳科学の研究により性的指向は脳機能と関係があることが解明されつつあります。今なら効果のある薬もあるのではないかと、いろいろと試しているのですが、あれもダメ、これもダメの繰り返しで……。
こんな中途半端なセクシャリティーでは恋愛もできない。かといって打ち明けることができる親しい友人もいない。人恋しさは人一倍感じますが、たぶん一生独りだと思います」
セクシャルマイノリティーだとは思いもしなかった
子どものころから人付き合いは得意ではなかったが、学校の成績はよかった。私立の中高一貫校に進学。このころは「アダルトビデオを見てドキドキしたし、初恋の相手も女性だったので、自分がセクシャルマイノリティーだとは思いもしませんでした」。
その後、有名国立大学に入学。研究室で実験に精を出す日々だったが、教授に叱責されることが多く、うつ病を発症した。セクシャリティーの問題とは別に、実験では試薬の配合を間違えるなどのミスが多く、飲食店でのアルバイトでは複数の注文がさばけないといった傾向があったことから「自分は発達障害なのでは」との疑念もあったという。
このころ、アルバイト先の男性から好意を寄せられた。サウナや旅行に誘われたのだという。ケンイチさんは「その男性と接すると緊張して声が上ずったり、汗をかいたりしました」と振り返る。自分は異性愛者ではないのかも――。初めてそう自覚した瞬間だった。
大学院を修了して就職してからも、ゲイもしくはバイセクシャルの同僚や先輩から何度かアプローチされたという。じっと見つめられたり、突然身を寄せられたり――。ただこの男性たちからカミングアウトされたわけではないという。だとすればケンイチさんの思い過ごしの可能性もあるのではないか。私の疑問に対し、ケンイチさんはこう訴えた。
「最初からカミングアウトする人なんていませんよ。私の挙動がおかしいので、私もゲイで好意を持っていると、相手に誤解されてしまうんです。彼らが私に好意を持っていたのは間違いありません。付き合いたいと思っているわけではないのに、性的にひかれる――。性的指向を変えたいと切実に思うのは、まさにこういうときです」
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