発達障害先史時代――。そんな言葉があることを、シゲルさん(仮名、53歳)から聞いて初めて知った。
「僕の子どもの頃は発達障害という言葉もありませんでした。
就職してあまりの仕事のできなさにショックを受けて。その頃、ようやく発達障害という概念を知り、何度か病院に行きましたが、そのたびに『大学を出ているのにそんなわけがない』『やる気の問題では』と一蹴されました。自分はこんなに困っているのにどうして、と絶望しました」
しなくてもいい苦労をしてきた世代
うつ病になって宗教や自己啓発セミナーにお金をつぎ込んだこともある。セミナーで言われたとおり、「ミスをしない自分」「周りとうまく話している自分」を懸命に想像したが、効果はなかった。結局宗教やセミナーに600万円は使ったのではないかという。
休職や退職、借金、ダブルワークなどを経験。ようやく“念願”の発達障害の診断を得て、今年6月、障害者手帳を取得した。しかし、年齢はすでに50歳過ぎ。障害者雇用で働こうとしたが、実質的な年齢制限もあり、仕事探しは困難を極めた。最近、何とかベンチャー企業の事務職として採用されたものの、心中は複雑だ。
「今の子どもたちは小さい頃から専門の支援を受けられる。20、30代の人も就職でつまずいたタイミングで障害がわかれば、そこから障害者雇用で働くこともできる。発達障害先史の僕らの世代は、しなくてもいい苦労をしてきた人がたくさんいると思います」
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