上司に叱責され続けた国立大卒53歳男性の訴え 「発達障害」という言葉すら当時はなかった

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2000年代に入ると、発達障害という言葉は少しずつ知られるようになった。ただ、当時はシゲルさんが医療機関で「自分は発達障害では」と訴えても、(診断の際の参考にされる)ウェクスラー知能検査さえ受けさせてもらえなかったという。

大手鉄道会社を退職後、収入は激減。

しばらくは自身が通った自己啓発セミナーの講師として生計を立てたが、同時に生徒として高額なセミナーにも参加しなければならず、参加費が天引きされて、手取りの年収は200万円ほどにしかならなった。

結局、講師の仕事はじり貧となり、10年ほど前、旅行会社でアルバイトとして働き始めた。仕事はデータ入力で、時給は最低賃金レベル。年末年始やゴールデンウィークなどの連休がある月は出勤日が減って、手取りが13万円を切ることもあり、ダブルワークを余儀なくされた。

ダブルワーク先は配送会社。荷物の仕分けや再配達の手配など臨機応変な対応を求められるので、シゲルさんにとっては不向きな職場だった。案の定ミスを連発。一回りも年下の同僚から連日罵倒された。

一度レッテルをはられると、パワハラの対象になりやすいのか「わからなくて確認すると『前に言うたやろ!』、自分で判断すると『なんで聞かへんねん!』とキレられました。しまいには僕が悪くなくても怒鳴られました」と言う。

コロナの感染拡大でアルバイトをクビにされた

いつクビになるかとおびえる日々に、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけた。

3月中旬、旅行会社から、シゲルさんを含むほとんどのアルバイトが解雇を告げられたのだ。シゲルさんはすぐにダブルワーク先の勤務時間を延ばし、併せて社会保険も移行した。ところが、一連の手続きを終えた矢先、国が雇用調整助成金の支給要件を緩和。会社は解雇を撤回し、助成金を活用してアルバイトらを休業させることにしたという。

シゲルさんも当然、旅行会社で働き続けられるものと思ったが、上司から「雇用調整助成金を申請するのに、社会保険に入っていない社員がいるのはまずい。不正を疑われるおそれがあるので、(シゲルさんには)このまま辞めてほしい」と言われてしまった。

しかも、署名するよう手渡された退職届けには「自己都合退社」と書かれている。頭の中にいくつもの疑問符が浮かんだが、シゲルさんはその場で署名に応じてしまったという。

収入が途切れないよう、ダブルワーク先の就労環境を整えたことが裏目に出たわけだ。結局、アルバイトの中でクビになったのはシゲルさんだけ。シゲルさんは「会社からだまされた」と憤る。

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