上司に叱責され続けた国立大卒53歳男性の訴え 「発達障害」という言葉すら当時はなかった

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シゲルさんは大阪出身。父親は会社員、母親は専業主婦だった。シゲルさんによると、父親も発達障害だったのではないかという。小さい頃、ご飯を食べるのが遅いという理由で、いきなり父親に戸外に引きずり出され、体中を蹴られたことがある。

父親は止めに入った母親に対し「子どもは牛や馬みたいにたたいて教育しろと、会社の同僚から言われた」という意味合いのことを言い、地面にうずくまるシゲルさんを蹴り続けた。体中あざだらけになり、翌日、幼稚園の先生から絶句されたという。

「母親への虐待もありましたし、会社での人間関係もうまくいっていないようでした。今思うと空気を読めない、程度がわからないところが発達障害の特性のようにも見えます」

ケアレスミスと過眠症にも似た症状に悩まされた

一方でシゲルさんは学校の成績はトップクラス。いじめに遭うこともなく、地方の国立大学を卒業した。バブル景気だったこともあり、地元の大手鉄道会社に就職。しかし、ここから先の人生は一気に暗転した。

シゲルさんの部屋。片付けができないという発達障害の特性が伝わればと、写真を提供してくれた(写真:シゲルさん提供)

仕事をするうえで、シゲルさんの悩みは、どんなに注意してもなくならないケアレスミスと過眠症にも似た症状だった。

文書作成では誤字脱字や変換ミスを繰り返し、郵便物を送るときはたびたび宛先を間違え、表を作るときはコピーや合算する範囲を取り違えた。

「普通の人なら30分で済む作業が半日かけても終わりませんでした。早朝出勤して何度も確認しても、いざ提出すると別のミスが見つかるんです。上司から怒鳴られない日はありませんでした」とシゲルさん。

また、いつミスをするかとびくびくしているはずなのに、1日に何度も猛烈な眠気に襲われた。トイレの便座に座って10分ほどうとうとすると回復するのだが、仕事中に居眠りをして注意を受けることもあったという。

若年性認知症を疑い、病院にかかったこともある。宗教や自己啓発セミナーのほかに、頭蓋骨の歪みや歯のかみ合わせが脳に悪影響を与えているのではと考え、高額な民間療法や自由診療に何十万円もかけた。

しかし、事態は何一つ好転しないまま、シゲルさんは関連会社に左遷。勤続15年を過ぎた頃、うつ病を発症して休職し、そのまま休職期間満了による自己都合退社となった。

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