実は「五輪特需」で潤うタクシー、その内情と不安 ハイヤー不足で恩恵もさまざまな問題が表面化

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今がタクシー業界にとってのピークかといえば、必ずしもそうではない。今後は競技を終えて選手団や関係者、メディア関係者の予約がすでに殺到しており、“帰国需要”が見込まれるのだ。五輪関係者が宿泊するホテルで営業をするドライバーがいう。

「大会を終えた関係者たちが、今後は続々と帰国していきます。タクシーからすれば、選手団よりもスタッフやセキュリティー、メディアなどのパイのほうが大きい。ここが動いていくことは間違いないので、今からが稼ぎ時になる。

一つ不安を感じているのは、パラリンピックの運送については現段階ではほぼ何も聞いていないことです。一部のドライバーの中では、『この状態で本当にパラリンピックは開催されるのか』という声も上がっている」

日本人客の需要が冷え切っている

五輪期間中は、日本人のタクシー利用に関しては冷え切っている。7月22日からの4連休では、目に見えて人出が減り、利用者はかなり限定的だった。通常であれば賑わいをみせる、六本木や渋谷といった場所でもほとんど人は動いていないという。東京駅周辺で営業するドライバーは、「五輪中は感染が怖いから東京を離れるというお客さんもいました。そういう人を何人か乗せましたね」と話す。

ある老舗タクシー会社の代表は、国内客の動きについてこう見ている。

「五輪前と比べて日本人客は圧倒的に動かない、というのが率直な感想です。せいぜいテレビ局を中心としたメディアによるハイヤーの貸し切り、五輪のアルバイトスタッフや警備くらいのものです。確かに五輪で売り上げは上がりましたが、ここに向けて各社は巨額の設備投資を行ってきたわけです。とてもじゃないですがそれを回収できるところには届かず、五輪後はコロナ以降で最低の水準まで落ちることも覚悟しています」

多少の潤いを見せているのは一部の企業だけというのも現実だ。都内を走る多くのタクシー会社の置かれた状況は依然として厳しい。新宿で乗ったドライバーはこんな恨み節を語った。

「結局、五輪で儲かるのはどの業界も大手だけということ。日本人の利用は目に見えて減っており、五輪前よりも売り上げは低いくらいで。個人タクシーや中小に至っては休業しているところもあるから。誰もが予測がついた感染爆発が現実となり、五輪が終わった後のドライバーの生活はより厳しいものになることは間違いない。ワクチン接種も終わってないなか、感染の恐怖と再び向き合う日々が始まるんです」

そして、こうも続けた。

「今の段階で感染者が3000人越え。五輪が進むにつれてまだまだ増えていくでしょうね。今はまだ競技会場が全国にバラけていますが、今後はより東京に一極集中になっていく。こうなることはわかり切っていたはずなのに、感染対策を含めて本当に正しい準備ができていたのか、という思いは消えませんね」

一時的にタクシー業界に恩恵を与えているという声も聞こえてくる一方、特例づくしの運送状況に怒りをあらわにするドライバーもいた。それでも共通していたのは、感染者増に歯止めがかからない東京で、五輪後の未来に不安を募らせているということだった。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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