音楽・美術・体育の「授業がない国」の背景事情 池上彰「コロナが収束したら海外に出てほしい」

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「週刊こどもニュース」を担当している頃に、イスラムのことを知らなければいけないと思って、イスラム教の啓典である『コーラン』の日本語訳を読んで勉強したのですが、中東へ取材に行くようになって、もっとイスラムのことを知りたい、学びたいと思うようになりました。

ものを知り始めると、自分がいかにものを知らないかということを知るのです。学びだすと「無知」を知る。そこから勉強が広がっていくのです。

イランに行ったあとは、イスラエルやパレスチナを取材して回りました。そのうち民放の番組から、ニュースをわかりやすく解説してくれませんかという話が来るようになり、テレビ局のスタッフと一緒に海外へ取材に行く機会が増えました。これまでに個人の取材旅行と合わせて、85の国と地域に行きました。

コロナ禍によって、日本を出られない、海外からも人が来ないという状況が続き、世界への関心がしぼみがちになっているかもしれません。しかし、世界は本当に広くて多種多様。狭い日本の常識にとらわれずに、世界へ目を向けてほしいのです。必ずあなたの視野を広げ、成長することにつながります。

物事を違う視点から見てみよう

ここまで読んできて、「日本に住んでいるのだから、日本のことだけ知っていれば十分じゃないか」と思った人がいるかもしれません。でも、多くの国や地域を取材すると、日本で「常識」と思っていたことが、常識でもなんでもなかったということに気づくことがあります。そういう経験をたくさんしてきました。いくつか実例を挙げていきましょう。

「アメリカは先進国でアフリカは開発途上国」。あなたは、そんな認識を持っていませんか。でも、それは本当でしょうか?

以前にアメリカの中西部、ミシガン州あたりの人に「外国に行ったことがありますか」と聞いたら、「この前、ニューヨークに行った」と言うのです。中西部の人にとってニューヨークは外国なのだと驚きました。中西部はかつて盛んだった製造業が衰退し「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれ、トランプ前大統領の支持者が多い地域です。

また、あまり知られていませんが、アメリカは、乳幼児死亡率がほかの先進国と比べて高いのです。格差が極端に広がり、医療を受けられないマイノリティーの女性の貧困や若年妊娠が原因とみられています。西部や中西部の一部の州などでは、そもそも病院の数が少ない。車を何時間も走らせないと病院がないというところがいくらでもあります。

私たちが思い描く「豊かな先進国アメリカ」というのは、ニューヨークやロサンゼルス、サンフランシスコあたりのイメージなのですね。アメリカは「先進国」と「開発途上国」が同居している国なのです。

では、あまりなじみのないアフリカについて私たちはどんな印象を持っているでしょうか。アフリカに行くと、ライオンとかサイとか、そういう野生動物をすぐ見ることができると思っていませんか?

実は、アフリカの子どもたちは野生動物を見る機会はほとんどありません。ライオンなどの猛獣は危険なので、町から相当離れたところに野生動物保護区を設けていて、そこまで行かなければ、さまざまな野生動物を見ることができないのです。

アフリカの子どもたちは、実物の野生動物を見ることはなかなかない。むしろ、日本にいる私たちのほうが、動物園に行って、すぐ見ることができるのです。アフリカに行けば、その辺に野生動物がいっぱいいるだろうなんて思うかもしれませんが、そんなことはないのです。

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