「温暖化で沈む国」は本当か?ツバルの意外な内情 沈没説にはどうも政治的な臭いがついて回る

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近年、気候変動による海面上昇については否定的な実証データが、次々に発表されている。温暖化→海面上昇→水没という図式では捉えきれなくなってきた。

その1つが、ツバルは消滅するどころか国土面積が拡大しているとする研究論文だ。2018年にニュージーランドのオークランド大学の研究チームが、イギリスの科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に発表した。航空写真や衛星写真を駆使して、ツバルの9つの環礁と101の岩礁について1971年から2014年までの地形の変化を分析した。

その結果、9つの環礁のうち8つで面積が広がっていて、ツバルの総面積は73.5ヘクタール(2.9%)も増えていたことが明らかになった。首都のあるフナフティ環礁だけを調べると、リング状の環礁に連なっている33の島で、過去115年間に32ヘクタールもの土地が拡大した。

太平洋とインド洋のサンゴ礁の島々も「安定か拡大」

さらに、太平洋とインド洋の600を超えるサンゴ礁の島々も同様に分析したところ、島の約80%は面積が安定しているか、拡大していた。縮小していたのは約20%だった。

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海面上昇によって島が沈んでいくと信じられていたが、その逆だった。これは、サンゴ礁の島々は年々サンゴが成長して環礁が高くなり、そこに砂が堆積して島が拡大していくためだ。

国土拡大説にツバル側は反発している。エネレ・ソポアガ首相は記者会見で記者団に対し、「この調査では居住可能な土地面積や海水侵入などの影響は考慮されていない」と不満を表明した。

私は多くの論文を読み比べたが、なぜツバルだけで海面上昇が起きて、ほかのハワイ諸島やミクロネシアやメラネシアの島々では問題にならないのか、という疑問を抱いてきた。科学的データからみて、島の拡大説には説得性があった。

実際にツバルを訪ねて島の有力者と話すと、関心事は海面上昇ではなくどれだけ援助が期待できるかにあった。太平洋の小さな島で環境変動から国が消滅するかもしれない、とする島民の不安を無視する気はないが、沈没説にはどうも政治的な臭いがついて回る。

石 弘之 ジャーナリスト

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いし ひろゆき / Hiroyuki Ishi

1940年東京都生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞入社。ニューヨーク特派員、編集委員などを経て退社。国連環境計画上級顧問、東京大学大学院教授、ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院教授などを歴任。この間、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事などを兼務。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞をそれぞれ受賞。主な著書に『感染症の世界史』『鉄条網の世界史(共著)』(角川ソフィア文庫)、『環境再興史』『砂戦争 知られざる資源争奪戦』(角川新書)、『地球環境報告』(岩波新書)など多数。

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