「温暖化で沈む国」は本当か?ツバルの意外な内情 沈没説にはどうも政治的な臭いがついて回る

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環境省で取材中に、気象局で働く若い研究者がいると聞いてたずねた。フィジーの大学を卒業してまたツバルに戻ってきたという。

彼は、南太平洋一帯の島々で1990年代初頭から観測をつづけてきたオーストラリアの国立潮汐センター(NTC)のデータを引用しながら「太平洋での過去10年間の測定の結果、ツバルで海面上昇が進行している証拠はまったく見つからなかった」と意外な話をはじめた。

満潮時の被害を大きくしたのには、2つの原因があると説明した。彼に連れられて付近の海岸に出てみると、サンゴ礁の島にはかならずあるはずの砂浜がまったくない。海岸は岩がごろごろした磯浜になり、波が直接に陸にぶつかってくる。

「骨材として建物や道路の建設に砂を取られてしまったのです」

そう彼は言う。もう1つは海岸の侵食による土壌流出だ。島の伝統的な家屋は、ヤシの木を柱にしてヤシの葉で葺いたものだ。

しかし人口や収入の増加で建物が増え、柱が足りなくなってコンクリート建てに替わってきた。セメントはフィジーから輸入しているが、砂は地元で採掘されている。首相は繰り返し、砂浜の砂採掘の禁止を呼びかけたが効果がないという。

独立後、人口は一貫して増加している

確かに1978年の独立後、人口は一貫して増加をつづけている。南太平洋地域研究が専門の小林泉(大阪学院大学教授)によると、19世紀末にフナフティ環礁に住む人は200人程度、独立前の1973年の調査でも871人にすぎなかったが、独立5年後には2620人に急増した。2018年には1万1000人(世界銀行)になった。この小さな島国で、人口の爆発が起きたのだ。

小林は言う。

「この狭い陸地で人口が急膨張すればどうなるのか。これまで居住地としては不適だった海岸ぎりぎりの砂地や水が湧き出るボロービット(砂の採掘穴)のすぐ近くにも住居を建てる。さらに、議会、行政府、警察、消防などの行政関連施設、学校や病院などの建設も必要だった。これだけで十分に重量オーバーであり島はいまにも沈みそうなのだ」

この理由の1つに、ツバルの北西にあるナウル共和国に出稼ぎにいっていた島民が戻ってきたことが挙げられる。

ナウルは世界有数のグアノの産出国だった。グアノは海鳥のフンや死骸が堆積したもので、リン鉱石が発見されるまでは肥料などの原料だった。このため高い国民所得を誇り、近隣国から出稼ぎ労働者が集まってきた。しかし、1990年代半ばにグアノは資源の枯渇によって生産が急減し、2000年ごろから外国人労働者を解雇・帰国させることになった。ツバルには約1000人が帰国することになった。

ところが島の収容力はすでに目一杯である。帰国者たちの移住先を別に見つける以外に方法はない。ツバルは近隣国へ「環境難民」の受け入れを要請した。これに応えて、ニュージーランドとフィジーは受け入れを決めたが、オーストラリアは拒否した。小林は「この時期に水没危機を国際社会にアピールしたのは政治的な意味があったからで、ことさら地球温暖化問題に結びつけられてきた」とみる。

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