刑事責任あいまいに?問題含み「略式起訴」の実態 公開裁判でないため冤罪が発生するリスクも
略式手続には、事前の検察官による説明と異議がない旨の書面(刑訴法461条の2)が制度上要求されているのだが、当事者である検察官が関与し、かつ、密室で行われる取り調べの実態からは、現実にはきちんと制度を理解したうえで真摯な同意をしているとはいいがたい。
略式手続の存在は、本当であれば「事実関係を争いたい」「無罪を主張したい」と考えている被疑者に対して、検察官からの一方的な情報に基づいて公開の裁判において争う道を断念させる誘因となっており、冤罪の温床となっているのではないかと筆者は考えている。
制度上、運用上の改善が必要
略式手続は、制定当初から憲法違反ではないかとの主張が根強くあるが、最高裁判所は憲法違反ではないと判断し、約7割の事件が略式手続で処理されている。現実的にも、すべての事件を正式な裁判で取り扱うと、今までの取り扱いを前提にするならば裁判所の処理機能がパンクしてしまうのも、また事実ではある。
しかし、略式手続にはこれまで述べたような問題があるのも事実であり、少なくとも、何らかの形で制度上、運用上の改善をしていくことは今後必要になってくると思われる。ではどう改善すればよいのか。
さしあたり、政治家などの権力犯罪の責任回避に用いられることに対しては、略式手続の対象犯罪の在り方を見直すなどの方策が考えられる。冤罪防止の観点からは、略式手続をするかどうか被疑者が判断するための前提として、弁護人の援助を必ず受けなければいけないとすることや、被疑者、弁護人側に捜査機関が保有している情報(証拠)の開示を求める権利を明文化することなどが考えられる。
著名な刑事訴訟法学者だった松尾浩也教授によれば、大正2年の刑事略式手続法の成立当時、衆議院では以下のような反対論が展開されていたとのことである。
「裁判所が検事の書面による請求のみによって裁判を下すのは、なお医師が患者を診察せずして投薬すると一般なり。その危険また思うべし」(松尾浩也「略式手続の合憲性(一)」法学セミナー1977年12月号54頁日本評論社)
大正時代に指摘された略式手続の「危険」は、現代においても克服されるべき課題ではないかと考える。
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