刑事責任あいまいに?問題含み「略式起訴」の実態 公開裁判でないため冤罪が発生するリスクも
意外に思われるかもしれないが、統計上は、通常の裁判よりも略式手続で処理される事件のほうが圧倒的に多い。
令和元年の裁判所の統計によれば、地方裁判所と簡易裁判所で起訴(公判請求)された事件(人員)の総数29万9963人のうち略式手続で処理された事件(人員)は20万4132人であり、実に約7割が略式手続で処理されている。そして、略式手続で処理される事件の約8割はスピード違反などの罰金で処理される道路交通法違反の事件であると言われている。
この略式手続は、すべての事件について公開の法廷で時間をかけて審理をすると裁判所の人員、設備がパンクしてしまうことから、裁判所の負担を軽減する目的がある。
加えて、裁かれる被告人にとっても公開の法廷で裁判を受ける負担がなくなり、早期に被告人という立場から解放される点でメリットなどもあることから、大正時代から現在に至るまで制度として定着している。
実際、逮捕されて勾留されてしまった被疑者にとっては、略式命令で罰金を払うことで時間のかかる刑事裁判手続きを経ることなく早期に釈放される。そのため、多くの事件では被疑者被告人のメリットにもなっているというのが実態だ。
略式手続の2つの問題点
しかし、略式手続には問題もある。①刑事責任の所在をあいまいにするおそれがあること、②冤罪の危険がある手続きであること、だ。
まず1つ目の刑事責任の所在をあいまいにするおそれがある点について。冒頭の公職選挙法違反の件もそうであるが、政治家や公務員の汚職などのケースでは略式命令で罰金刑が科せられるケースをよく目にする。
略式手続は、公開の法廷が開かれることがなく、書面審理だけで罰金刑が科せられてしまうことから、一般の国民は、審理の過程を知る機会が与えられないまま刑事事件の審理は終了してしまう。
刑事裁判は、事案の真相を解明して、罪を犯した者に対しては適切な処罰を行うことを目的としている手続きである。そのことからすれば、略式手続は、そのような刑事責任追及をする手段を放棄することを意味する。そのため、犯罪者に対する処罰を厳正に行わなければならないと考える立場から疑問が出ても不思議ではない。
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